日本銀行(以下、日銀)は、金融システムの安定を維持するため、テールリスクへの対策を強化しています。テールリスクとは、発生確率は低いものの、一度起こると深刻な影響を及ぼすリスクを指します。特に、世界的な金融環境の引き締まりや海外経済の減速懸念が続く中、これらのリスクへの警戒が重要視されています。
2023年10月に発行された日銀の「金融システムレポート」によれば、わが国の金融システムは全体として安定性を維持しています。しかし、各国中央銀行の金融引き締め継続やそれに伴う海外経済の減速懸念など、ストレス局面が長引く可能性が指摘されています。これにより、金融資本市場における先行きの不確実性が高まっており、テールリスクへの警戒が引き続き重要であるとされています。
具体的なリスクとして、以下の点が挙げられます。
1. 金利リスク:長期にわたる低金利環境のもとで、金融機関の金利リスクが増加しています。特に、資産と負債の金利更改期間の差であるデュレーション・ギャップが拡大しており、金利変動によるリスクが高まっています。
2. 信用リスク:企業倒産が増加する中でも、金融機関の貸出債権の質は維持されています。しかし、世界的な金融環境の引き締まりが続く中、各種調達コストの累積的な上昇や世界経済の減速が、貸出先企業の財務悪化要因となっています。
3. 不動産リスク:不動産市場では、貸出増加が続いており、特に都心の商業地区において高額帯の取引が増加しています。これにより、不動産価格の割高感が指摘されており、将来的な調整リスクが懸念されています。
これらのリスクに対し、日銀は金融機関に対して以下の対応を促しています。
• リスク管理の高度化:金融機関は、金利リスクや信用リスクの管理を高度化し、潜在的な脆弱性に的確に対処する必要があります。
• 資本基盤の強化:基礎的な収益力の低迷が続く中、自己資本の蓄積を進め、損失吸収力を高めることが求められます。
• 不動産エクスポージャーの適切な管理:不動産関連の貸出や投資が拡大しているため、そのリスクを適切に評価・管理することが重要です。
さらに、通貨防衛の観点から、日銀は為替市場の安定にも注力しています。2024年5月には、円安の進行を受けて、日本政府が為替市場に介入したとの報道がありました。元日銀の担当者である竹内淳氏は、投機的な取引による急激な円安を防ぐため、日本は引き続き市場介入を行う可能性が高いと指摘しています。
また、2024年4月には、鈴木俊一財務相が円安の負の影響について懸念を表明し、必要に応じて行動を取る準備があると述べています。これは、日銀が超低金利政策を維持する中での発言であり、為替市場の安定を重視する姿勢が示されています。
しかし、日銀が円安抑止を目的とする、いわゆる通貨防衛的な利上げに踏み切るとの見方は根強いものの、日銀自身は金融政策によって為替を円高方向に動かせるとは考えていないとされています。そのため、賃金や物価の動向に注視する姿勢を貫くとみられています。
総じて、日銀は金融システムの安定性を維持するため、テールリスクへの警戒を強めつつ、通貨防衛にも取り組んでいます。しかし、金融政策の効果や為替市場の動向には不確実性が伴うため、引き続き慎重な対応が求められます。
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