#523 2025年3月期決算速報――デンソー、コスト改善と円安効果で過去最高益を更新

はじめに

トヨタグループの中核サプライヤーであるデンソー東証プライム 6902)が4月25日に2025年3月期(以下 FY25)通期決算を公表しました。売上は微増でしたが、営業・最終利益がそろって30%超の伸びとなり過去最高を大きく更新。来期(FY26)も利益の大幅増を見込み、2期連続で最高益更新を狙います。本稿では決算のポイント、ドライバー、リスクと投資視点を整理します。

 

1 連結業績ハイライト

・売上収益 7兆1,618億円(前年比+0.2%)

・営業利益 5,190億円(+36.4%)

・営業利益率 7.3%→9.1%へ改善

・親会社株主帰属利益 4,191億円(+34.0%)

・年間配当 64円(前年と同額、DOE 3.5%)

円安(平均152.6円/ドル)が約1,300億円の増益効果をもたらした一方、原材料高によるマイナスをコスト削減で吸収したことが利益急増の主因です。

 

2 地域別動向

日本:売上4兆2,164億円(+1.2%)、営業利益2,205億円(+159%)

北米:売上1兆8,632億円(+5.4%)、営業利益981億円(+80%)

欧州:売上7,187億円(−8.0%)、営業利益87億円(−72%)

アジア:売上1兆9,401億円(−2.3%)、営業利益1,695億円(−8%)

国内と北米が増産・円安効果で利益を牽引。欧州・アジアは減産影響が残りました。

 

3 事業ドライバー

・電動化(xEV)関連売上は前年比20%増。eアクスル・インバータの量産が寄与

・ADAS(先進運転支援)部品は半導体不足の緩和で供給が正常化

・研究開発費は売上の8.6%(6,160億円)と高水準を継続し、パワー半導体 SiC の内製化を加速

・為替感応度:1円の円高で営業利益▲35億円(FY26計画ではドル145円前提)

 

4 FY26会社計画

・売上7兆500億円(▲1.6%)-保守的な為替前提で減収見込み

・営業利益6,750億円(+30%)、営業利益率9.6%

・当期利益5,150億円(+23%)

・年間配当は64円継続

トランプ米大統領が示唆する追加関税は「織り込んでいない」と説明。為替前提が強め(145円/ドル)のため、円安が続けば上振れ余地もあります。

 

5 財務健全性と株主還元

自己資本比率は57%(+1pt)、ネットD/Eレシオ0.04倍と健全。フリーCFは2,480億円黒字。DOEを重視しつつ、成長投資と還元の両立を掲げています。

 

6 株価とバリュエーション

4月24日終値1,805円ベースでの指標:

・実績EPS 145円 → PER 12.5倍

・会社予想EPS 183円 → 予想PER 9.9倍

・PBR 1.35倍(自己資本13,370億円)

トヨタグループ主要部品株の平均PER(約15倍)と比較すると割安水準に映ります。株価は決算発表前の3営業日で+4%と先回り買いが入ったものの、利益成長シナリオとPERのギャップが評価余地として残ると考えます。

 

7 リスク要因

・米追加関税が実施された場合の下振れ(会社試算では10%関税で年間▲200億円)

・急速な円高転換(1円円高で営業利益▲35億円)

・EV市場成長の想定下振れによる電動化部品需要減少

 

8 投資家向けまとめ

デンソーはFY25に利益率改善を一気に進め、営業利益・最終利益とも過去最高を達成しました。FY26も売上横ばいながらコスト改善で2桁増益を計画しており、株価指標は依然割安圏です。為替と貿易政策の不透明感はあるものの、

・電動化・ADASという高付加価値領域での伸長

・高水準のR&D投資とキャッシュ創出力

・健全な財務と安定配当政策

を勘案すると、長期NISAでのコア保有銘柄として再評価余地が大きいと見ます。短期的には関税議論と為替に注意を払いながら、9月上旬に予定される新中期経営計画の内容が株価カタリストとなりそうです。

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