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要約
2025年3月期(以下 FY2024)の第一三共は売上収益1兆8,862億円(前期比+17.8%)、営業利益3,319億円(+56.9%)、親会社帰属当期利益2,958億円(+47.3%)と二桁増収増益で着地した。牽引役は抗体薬物複合体(ADC)“エンハーツ”などを擁するオンコロジービジネスユニット(売上4,638億円、+38.6%)。同社は次年度も売上2兆円、最終利益3,000億円、年間配当78円(前期比+18円)を予想している。
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決算ハイライト
売上収益 1兆8,862億円(+2,846億円)
コア営業利益 3,128億円(+60.2%)
営業利益率 17.6%→17.6%(構成改善で粗利率向上)
研究開発費 4,329億円(+18.8%)
期末配当 60円/株(年間)・自己株取得総額2,000億円枠を設定
ユニット別動向
ジャパンビジネス:4,769億円(▲8.1%)。ジェネリック子会社除外の影響をリクシアナ・タリージェ・エンハーツの伸長で一部補完。
オンコロジー:4,638億円(+38.6%)。エンハーツが北米・欧州で急拡大。化学療法未治療のHER2低発現乳がんなど適応拡大が寄与。
ヘルスケア:867億円(+14.1%)。OTC主力のマイティア・ロキソニン好調。
アメリカンリージェント:2,172億円(+6.8%)。ジェネリック注射剤が底堅い。
EUスペシャルティ:2,374億円(+25.5%)。Lixianaに加えNilemdo/Nustendiが成長。
ASCA:2,112億円(+14.8%)。ブラジル・中国でエンハーツ販売が加速。
成長ドライバーとコスト構造
・エンハーツ売上高は5,528億円相当(前年比+40%)。HER2低発現・超低発現BCでの米欧承認が追い風。
・プロフィットシェア増加でSG&Aは7,248億円(+15.5%)だが、製品構成改善で売上原価は0.2%増に留まった。
・為替寄与は売上+513億円、コア営業利益+8億円。
研究開発・パイプライン
5DXd ADCs(Enhertu, Dato-DXd, HER3-DXd, I-DXd, R-DXd)に資源集中。R&D費比率は23%と高水準を継続。Dato-DXdは日米欧で「DATROWAY」として承認取得済み。次波(Next Wave)としてTA-MUC1標的DS-3939ほか新規モダリティを開発中。
財務と株主還元
・営業CF 538億円、投資CF▲3,341億円(ADC設備投資・IP取得で拡大)、期末現金6399億円と潤沢。
・年間配当は60円へ増配。自己株取得は25/4取締役会で新たに最大8000万株/2,000億円を決議し、5月30日に1,397万株を消却予定。次期は78円配当を計画しDOE8.5%超を掲げる。
2026年3月期ガイダンス
売上2兆円(+6%)、コア営業利益3,500億円(+11.9%)、当期利益3,000億円(+1.4%)を見込む。主な前提は
・Enhertu世界売上6621億円(+1,093億円)
・Dato-DXdの初年度グローバル売上140億円
・為替前提 USD/JPY 145, EUR/JPY 158
投資視点
強み
・世界最大級のADCパイプライン、Enhertuの適応拡大余地が大きい
・プロフィットシェア・ロイヤリティモデルにより資本効率が高い
懸念
・ADC安全性(間質性肺疾患など)リスク
・大型投資に伴うFCFの変動
・円高転換時の業績感応度
総合評価
FY2024は「Maximize 3 ADCs」戦略が数字に結実し、営業利益は3,000億円を突破した。来期ガイダンスは保守的に映るが、Enhertuの超低発現領域やDato-DXdの上市が上振れ余地。R&D費の先行投資を吸収しつつ増配と自社株買いを続ける財務余力も魅力だ。株価にはパイプライン成功確率と特許切れ後の収益モデルが織り込まれるため、臨床マイルストーンの進捗を注視しながら押し目を拾うスタンスを推奨したい。
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本記事は公開情報に基づく執筆者個人の見解であり、投資判断を目的とするものではありません。
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