ニデック(日本電産)は、小型から大型に至るあらゆるモーターを中心に事業を展開している日本のグローバル企業です。創業者であり会長兼社長CEOでもある永守重信氏のリーダーシップのもと、幅広い分野へと事業拡大を進めています。とりわけ、買収を通じた事業拡大戦略の巧みさから「買収巧者」として知られ、近年は車載モーターや産業用ロボット、家電、再生エネルギーなどの分野で積極的にシェアを拡大しています。
1. ニデックの歩みと沿革
ニデックは1973年、永守氏がわずか4名の仲間とともに資本金2,000万円で創業しました。創業当初は小型精密モーターの製造からスタートしましたが、コンピュータやAV機器の普及とともに成長を遂げ、硬ディスクドライブ(HDD)用スピンドルモーターで世界シェアトップクラスまで上り詰めました。
1-1. 創業から急成長へ
• 1973年:京都市で創業。小型精密モーターの製造・販売を開始。
• 1980年代:ビデオデッキやカセットテープレコーダーなどの普及により、小型モーターの需要が急伸。ニデックは高品質と生産効率の高さで急拡大。
• 1990年代:パソコンの普及に伴い、HDD用スピンドルモーターが急成長。これが現在のニデックの基盤を強固にしました。
1-2. 積極的M&A(買収)による事業拡大
• 2000年代以降:ニデックは世界各地のモーターメーカーや関連部門を次々に買収し、多角化に成功。自動車部品、産業機器、家電向けモーターなどへ事業領域を拡張。
• 主な買収例
• 2010年:エマソン・エレクトリック社(Emerson Electric)のモータ・コントロール部門を買収。
• 2012年:スイスの小型モーター企業を買収し、ヨーロッパでの生産・販売力を強化。
• 2016年:再びエマソン・エレクトリック社の産業用モーター事業(Leroy-SomerやControl Techniquesなど)を買収。
これらのM&Aにより、ニデックは技術ノウハウ・販売チャネル・顧客基盤を一挙に獲得し、世界中にモーター事業のネットワークを構築しました。
2. 「買収巧者」と呼ばれる理由
ニデックが「買収巧者」と評されるのは、単に企業を買収して規模を拡大するだけではなく、買収した企業や部門を短期間で再建し、グローバル市場で相乗効果を発揮させる点にあります。以下のような特徴が挙げられます。
1. 迅速な意思決定とPMI(Post Merger Integration)の徹底
• 永守氏を中心とする経営陣が、買収後すぐに生産体制や販売戦略の見直しを行い、経営改革を断行。買収先企業のもつ強みを活かしつつ、弱点を素早くカバーすることで短期間で利益に貢献させる手腕が高く評価されています。
2. グローバル規模の技術・営業基盤
• 世界中に張り巡らされた販売ネットワークと豊富な技術リソースを組み合わせることで、買収先企業の製品をより幅広い市場に売り込める。また、各国の拠点の研究開発部門が連携し、それぞれが持つ技術を統合することで製品力を高めています。
3. 経営理念と企業文化の共有
• ニデック独自の「社員の幸せ、顧客の満足、社会への貢献」を掲げる企業理念を浸透させ、現地経営陣との連携をスムーズに行う取り組みがあります。買収先企業の経営陣と従業員のモチベーションを上げ、グループ全体での一体感を早期に醸成しているのも強みです。
3. 今後のビジネス展開
3-1. 車載向けモーター・EV関連事業
自動車のEV化(電動化)の流れは加速しており、世界中でエンジン車からEVやハイブリッド車への移行が進んでいます。ニデックはこのニーズに対応すべく、車載用モーターやインバーターなど駆動系ユニットの開発・生産に注力。
• 主力分野
• トラクションモーター(EVを走行させるメインモーター)
• パワーステアリング用モーター
• ブレーキシステム向けモーター
• 電動コンプレッサー、ファン、ポンプ など
これら車載向けモーター事業の強化は、ニデックの長年培った小型モーター技術やノウハウが大いに活きる領域です。既に世界的な自動車メーカーと提携・取引を拡大しており、将来の大きな成長エンジンと目されています。
3-2. 産業用ロボット・FA(Factory Automation)分野
工場の自動化・省力化ニーズの拡大にともない、産業用ロボットや自動化機器など、FA分野の需要が高まり続けています。ニデックが買収した各社の技術力を統合し、サーボモーターや精密減速機、制御システムといったFA関連製品の開発・生産を強化。世界的な需要増に対して、モーターと制御装置をトータルに提供する体制を整えています。
3-3. 家電・スマートホーム向けモーター
従来からの白物家電(冷蔵庫、洗濯機、エアコンなど)向けモーターは安定した需要を見込みやすい市場です。さらに、IoTやスマートホーム化が進展することで、小型モーターやファン・ポンプ類の需要も伸びると予想されます。高効率、省エネ、静音性を追求したニデックのモーター技術は家電分野でも活かされており、地球環境への配慮に対しても積極的に取り組む姿勢を示しています。
3-4. 再生可能エネルギー・蓄電システム関連
風力・太陽光発電など再生可能エネルギー市場の拡大や、電力の効率的な利用を可能にする蓄電システムの需要増大も今後の注目領域です。ニデックは産業用大型モーターや発電機、変速装置、パワーエレクトロニクス技術などを活用し、エネルギーインフラ分野への参入を加速しています。
4. まとめ
ニデックは創業以来、常に“世界一の総合モーターメーカー”を目指して、果敢に事業拡大を進めてきました。数々の企業買収を成功に導き、事業を多角化させることで「買収巧者」の名をほしいままにしています。近年は自動車電動化や産業用ロボット分野への参入を強化し、世界的な成長トレンドを取り込みながらさらなる拡大を目指している段階です。
今後も新たな技術革新が進む中で、ニデックのM&A戦略や新製品開発力は、モーター産業のみならずエネルギーやモビリティの未来を大きく変える鍵となるでしょう。引き続き、世界中の多様なニーズに合わせた柔軟な事業展開と、収益拡大が期待されます。ニデックが今後どのように進化し、私たちの生活や産業界を支えていくのか、目が離せない企業の一つです。
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