ロシアによるウクライナへの軍事侵攻(2022年2月~)以降、ニュースなどで頻繁に目にするようになったのが「SWIFT(スウィフト)からの排除」というキーワードです。SWIFTは国際送金を行う上で不可欠なインフラであり、特定の国や金融機関が排除されると、国際的な資金移動が大きく制限されます。この記事では、そもそもSWIFTとは何か、どのように機能しているのか、またロシアに対するSWIFT制裁がどのような影響をもたらしているのかを分かりやすく解説していきます。
1. SWIFTとは何か?
1-1. SWIFTの概要
• 正式名称: Society for Worldwide Interbank Financial Telecommunication(国際銀行間金融通信協会)
• 本部所在地: ベルギー
• 設立年: 1973年
SWIFTは、国際間の銀行同士が安全かつ迅速にメッセージ(送金指示や残高照会など)をやり取りするための通信ネットワークです。文字通り「メッセージのやり取り」を担うものであり、SWIFT自体が送金を行うわけではありません。しかし、この通信システムを使って世界中の銀行間で送金指示が飛び交うため、現代の国際送金には欠かせない仕組みとなっています。
1-2. SWIFTの役割
• メッセージングの標準化: 銀行間送金に必要な情報(送金先口座や金額など)を標準化されたフォーマット(SWIFTコードなど)でやり取りします。
• 安全性: 金融機関同士の通信を暗号化し、不正アクセスや詐欺から保護する機能を備えています。
• 迅速性: 高速な通信網を使い、国際送金の指示がスムーズに処理されます。
ここでポイントなのは、全世界の金融機関が共通して利用するため、もしある国や銀行がSWIFTネットワークから切り離されると、その国・銀行は国際的な資金決済が極めて困難になるという点です。
2. ウクライナ危機を背景としたロシアへの制裁
2-1. SWIFTからの排除
ロシアのウクライナ侵攻に対して、欧米諸国はロシアの一部銀行をSWIFTネットワークから切り離す制裁措置を取りました。これは非常に強力な手段とみなされており、国際金融市場からロシアを締め出す効果があります。
• 対象: ロシアの主要な銀行(国営銀行含む)が中心
• 目的: 国際的な資金移動を制限することで、軍事行動を継続する上で必要な資金調達能力を削ぐ
2-2. なぜ効果が大きいのか
国際貿易の決済はSWIFTネットワークが使われることがほとんどです。ロシアの銀行がSWIFTを利用できなくなると、輸出入代金の受け取りや支払い、国外からの投資資金の受け入れなどが著しく困難になります。さらに、外貨準備の活用にも制限がかかり、通貨ルーブルの下落やインフレが進む可能性が高まります。
3. ロシアへの実際の影響
3-1. 経済の締め付け
ロシアの主要銀行が制裁対象になったことで、ドルやユーロ建ての取引が難しくなりました。その結果、欧米企業との取引が滞り、ロシア国内の輸入・輸出関連企業の収益が下がるなど、経済活動にブレーキがかかっています。
3-2. 代替手段の模索
• SPFS(ロシア版SWIFT): ロシア国内で独自に開発した送金システムですが、参加している国際銀行は限られており、世界規模で見るとまだSWIFTほどの汎用性はありません。
• CIPS(中国の人民元決済システム): 中国による決済ネットワークですが、やはり人民元圏内や協力的な国との間でしか使いにくいという制限があります。
• 暗号資産の利用: 仮想通貨(暗号資産)を使った資金移動も試みられていますが、各国の規制が強化されつつあり、制裁逃れの手段としてはまだ限定的です。
3-3. 長期的な懸念
SWIFTから切り離されれば、ロシアの銀行や企業の信用力が低下し、海外からの投資も入りにくくなります。さらに代替ネットワークへの移行に成功したとしても、ドルやユーロを中心とする国際金融秩序から外れるリスクが大きいままです。
4. ロシア制裁を巡る現状と今後
4-1. 制裁強化の可能性
欧米諸国は、ロシアの戦況や国際関係の変化に応じて制裁を強化する可能性を示唆してきました。新たな金融機関や産業がターゲットになることもあり、SWIFTからの排除対象を拡大する動きも懸念されます。
4-2. SWIFTの中立性・政治性
SWIFTは民間組織でありながら、各国政府の意向を汲む形で制裁措置に協力しています。今後もSWIFTが政治的圧力のかかる舞台となる可能性は高く、「金融インフラ」と「国際政治」が深く結びついている事例と言えます。
4-3. 国際金融秩序の変化
SWIFT制裁は効果が高い半面、「米欧主導の国際金融システム」に依存しない新たなネットワークを構築しようという動きも加速させています。ロシアや中国のみならず、制裁リスクを抱える他国も代替システムを模索するかもしれません。
5. まとめ
1. SWIFTとは
国際的な銀行間通信ネットワークで、世界中の送金や金融取引を円滑にする不可欠な仕組みです。
2. ロシアに対するSWIFT制裁
ウクライナ危機の制裁措置として、一部のロシア主要銀行がSWIFTから排除されました。これにより国際金融市場からの資金移動が大幅に制限され、ロシア経済への打撃が大きくなっています。
3. 制裁の影響
• 国際貿易が滞り、輸入・輸出企業の収益悪化
• 通貨・金融不安の増大
• 海外からの投資減少
4. 今後の展望
ロシアは独自の送金システムや中国のCIPSなどを活用していますが、国際的な信頼度・利便性ではSWIFTが圧倒的に優勢です。制裁が長期化すれば、ロシアの金融・経済はさらに苦しい状況が続き、世界の金融秩序にも大きな変化をもたらす可能性があります。
SWIFTは現代の国際金融における「共通言語」とも言えます。ロシアのような大国が排除されるケースは極めて珍しく、世界的な資金の流れやパワーバランスを変えかねない事態です。ウクライナ危機が長引くにつれ、ロシアは外貨調達や貿易決済で苦戦を強いられています。一方で、今回の制裁をきっかけにSWIFT依存を減らそうとする動きが各国で強まるかもしれません。今後も、国際政治・経済とSWIFTの関係から目が離せない状況が続くでしょう。
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