【はじめに】
総合商社首位の三菱商事が5月2日に2025年3月期(以下 FY25)決算を発表しました。資源価格の調整や大型売却益の剥落で最終減益となった一方、1兆円規模の自社株買いと増配を掲げ、株主還元姿勢はむしろ強化されています。本稿では FY25 実績と FY26 見通し、セグメント別の動向、財務・株主施策の要点を整理し、投資視点を考察します。
【FY25 主要ハイライト】
・売上収益 18兆6,176億円(前年同期比‑4.9%)
・税前利益 1兆3,934億円(同+2.3%)
・最終利益 9,507億円(同‑1.4%)
・1株当たり利益 236.97円(同+3.0%)
・年間配当 100円→実績、来期計画 110円(10円増配)
※IFRS 連結ベース
【セグメント別動向】
環境エネルギー:LNG・再エネが堅調。豪州原料炭の数量減少で粗利は縮小も、最終利益は1,986億円とセグメント首位
素材ソリューション:原料炭・銅価格の軟化で減益(682億円)。
鉱物資源:鉄鉱石・アルミ関連が好調で2,278億円。
都市開発・インフラ:再エネ開発・データセンター投資が寄与し398億円。
モビリティ:自動車販売減を補う金融サービスで1,123億円。
食料産業:ローソンが持分法会社となり持分利益減、924億円。
※金額は「親会社株主帰属利益」
【4Q(1‑3月)急減速の理由】
最終利益は1,233億円で前年同期比‑53.9%。
・原料炭市況反落
・ローソンの持分法移行による売上総利益縮小
・前年に計上した発電事業売却益の反動
【財務体質とキャッシュフロー】
総資産 21.5兆円、自己資本比率 43.6%へ上昇(+5.0pt)
営業 CF 1兆6,583億円と高水準を維持し、資源サイクルに依存しない稼ぐ力を示しました 。
【FY26 見通し】
会社側は最終利益 7,000億円(‑26.4%)を想定。
背景:
・大型資産売却益が剥落する一方、資源価格は保守的前提
・中核のLNG・再エネ案件は増益計画も、ローソン連結外れの影響継続
【株主還元策】
・年間配当 110円(実績比+10円)
・1兆円の自己株式取得枠(17%相当)を4月3日に決議、2026年3月末まで実施予定
旺盛なキャッシュ創出力により、減益局面でも総還元性向は実質70%超と推測されます。
【投資視点でのチェックポイント】
非資源事業の稼ぐ力
スマートライフ、モビリティ、食料など非資源領域が利益の40%を占め、資源市況変動を平準化。FY26 ガイダンスでも同領域は増益計画。
巨額株主還元の持続性
営業 CF が1.6兆円あり、成長投資1兆円を差し引いても手元に余力。PBR1倍前後の株価水準では自社株買いがEPS押し上げ要因。
リスク要因
・鉄鉱石・原料炭など資源価格の想定外の下落
・米中摩擦によるトレーディングマージン圧縮
・円高(想定レート145円)への感応度
【まとめ】
三菱商事は3期連続減益を見込む保守的なスタートを切りましたが、巨額の自社株買いと増配で株主へのコミットメントを明確化しました。資源サイクル調整局面でも非資源事業の底力が光り、FY27 以降の1兆円純利益回復シナリオは依然現実的です。資源価格のボラティリティを許容できる投資家にとって、株主還元と中長期成長の両取りが期待できる銘柄と言えるでしょう。
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