◆ はじめに
「ソニー=家電メーカー」というイメージはいまだ根強いものの、現在のソニーは“総合エンターテインメント+半導体企業”へと劇的に姿を変えています。本稿では①歴史的ヒット商品による黄金期、②2000 年代の苦境、③事業ポートフォリオ転換、④最新決算が示す収益構造、⑤今後の注目ドライバーを整理し、同社が何で儲けているのかを解き明かします。
―― 1 過去の栄光:ウォークマン、トリニトロン、初代 PlayStation ――
1979 年発売の携帯型カセットプレーヤー「ウォークマン」は世界累計 2 億台を超える大ヒットとなり、“音楽を持ち歩く”文化を創出しました。90 年代にはブラウン管テレビ「トリニトロン」や家庭用ゲーム機「PlayStation」が続き、家電とゲームの両輪でピークを迎えます。
―― 2 2000 年代の失速とリストラ:テレビ赤字と VAIO 売却 ――
液晶テレビ競争で韓国勢に押され、モバイル・ PC 事業も振るわず、2014 年には赤字対策として PC「VAIO」を投資ファンド JIP に売却し、テレビ事業を分社化。5,000 人規模の削減を断行するなど痛みを伴う再編に踏み切りました。
―― 3 構造改革とポートフォリオ転換:IP・サービス・半導体へ ――
2012 年に就任した平井一夫氏、2018 年以降の吉田憲一郎氏は「ゲーム&ネットワーク」「音楽・映像 IP」「イメージセンサー」を成長の三本柱に据え、低採算家電の比率を縮小。2022 年には米 Bungie を 36 億ドルで買収し、ライブサービス型ゲーム強化に動きました。
―― 4 最新決算(2024 年度第3四半期まで)に見る“今の稼ぎ頭” ――
FY24(2024 年4月〜12 月)累計のセグメント別営業利益は以下の通り(単位:億円)。
G&NS(ゲーム) 322.1
Music(音楽) 273.7
ET&S(テレビ・カメラなど) 211.3
Financial Services 142.1
Pictures(映画) 63.8
ゲームが最大ながら、音楽・半導体・家電+カメラがほぼ拮抗し、利益源の多様化が進んでいます。
―― 5 強みを支える3大キャッシュエンジン ――
1)ゲーム&ネットワークサービス
PS5 累計販売は 5,800 万台超。ハードは薄利ながら、ソフト販売・PS Plus 課金・追加 DLC で高粗利を稼ぐ“レイザーブレードモデル”が定着。FY24 通期営業利益ガイダンスは 3,800 億円。
2)音楽/映像 IP
ストリーミング比率 70% 超の音楽事業はサブスク拡大で安定成長。アニプレックスや Crunchyroll を通じたアニメ事業も海外で高伸。映像はスパイダーマン、Jumanji などライブラリ IP からの配信ライセンス収入が利益の底上げ要因。
3)イメージセンサー
スマートフォン向け CMOS センサーでシェア 53%(23 年)と独走。自動車センシング用の高耐熱・高ダイナミックレンジ品にも領域を拡大中。
―― 6 財務戦略:株主還元と成長投資 ――
2024 年 10 月には 1→5 の株式分割と 2,500 億円までの自社株買い枠を発表し、資本効率改善への姿勢を強調。 同時に、熊本の半導体新工場とゲーム向け M&A に年間 8,000 億円規模を投資する計画を示しています。
―― 7 今後の注目ポイント ――
● ゲーム:Bungie のライブサービスノウハウを活かし、PS5 世代後半にリカーリング売上をどこまで伸ばせるか。
● 半導体:アップル以外のスマホ OEM、車載 LiDAR/カメラ向け高付加価値センサーでシェア 60% を狙う戦略。
● 映像/IP:アニメとゲームのクロスメディア展開を加速し、多面的なマネタイズを図る。
◆ まとめ
かつては「ウォークマンとテレビの会社」だったソニーは、ゲーム・音楽・イメージセンサーというデジタル時代に不可欠な IP とデバイスで稼ぐ“マルチエンジン企業”へと変貌しました。ハードの一発勝負から、継続課金+高シェア部品によるキャッシュ創出にモデルを転換した点が過去との最大の違いです。今後は IP と半導体が相乗効果を生むかどうかが、さらなる企業価値向上のカギとなります。
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