#540 パナソニックの「栄光・挫折・再起」──家電王国はどこへ向かうのか

【はじめに】

松下電器産業」の看板で世界を席巻したパナソニックはいま、持株会社Panasonic Holdings」として再出発を図っています。本稿では①創業から黄金期までの栄光、②苦い挫折の歴史、③現在の事業ポートフォリオと再成長戦略、を通して同社の現在地を整理します。

 

【1 栄光の時代】

1930年代に創業者・松下幸之助が掲げた「水道哲学」(良品廉価で社会に貢献)の下、同社は家電のフルライン化を推進。1970年代には日本発VHS方式のビデオデッキで世界シェア首位を奪取し、「ナショナル/パナソニック」ブランドをグローバルに定着させました。

 

1990年代前半には売上高7兆円超・営業利益5,000億円台を計上し、ソニーと並ぶ“家電二大巨頭”として君臨します。

 

【2 挫折と失敗】

プラズマテレビへの過剰投資

2000年代、薄型テレビ競争でプラズマ方式を選択。京都府姫路などに巨額投資を行ったものの、液晶への急速シフトに追随できず2013年に自社生産を終えました。

 

スマートフォン撤退

フィーチャーフォン時代の国内シェアは首位級でしたが、Androidスマホ競争ではNECカシオとのJV失敗もあり2013年に国内個人向け端末から撤退。

 

―サンヨー買収の教訓

2009年にサンヨー電機を約6,600億円で完全子会社化するも白物家電太陽電池は競争力を維持できず、数年で売却・縮小を余儀なくされました。

 

これらの判断ミスが2010年代の利益率低迷(営業利益率1〜3%台)につながります。

 

【3 再起のための構造改革

同社は2022年4月、持株会社Panasonic Holdings」に移行。事業会社ごとの自立経営で資本効率を高める体制へ転換しました。

 

現在の報告セグメントは

・Lifestyle(生活家電・住宅設備)

・Automotive(車載インフォテインメントなど)

・Connect(B2Bソリューション)

・Industry(電子部品・FA)

・Energy(車載/定置用電池)

という5本柱です。

 

【4 主力事業の現況】

●Energy

テスラ向け円筒型電池で世界上位。ネバダ州ギガファクトリーに次ぎ、米カンザス州デソトで約4,000億円を投じた新工場が2025年春稼働予定、年30GWhを計画しています。

 

●Connect

流通・物流用IoT、放送機材、公共インフラ向けシステムを提供。B2B比率が8割を超え、安定収益源となっています。

 

●Lifestyle

白物家電と住宅設備(パナソニックハウジング)を統合し、国内高付加価値モデルとアジア向け普及機で差別化。FY2024は売上高2兆6,626億円(前年比+4%)でした。

 

●Automotive

トヨタ系を中心に車載コックピット、EV向け熱管理システムを展開。半導体不足の影響から回復基調。

 

●Industry

電子材料、モータ、FA制御機器を手がけ、EV・半導体製造装置向け需要を取り込みます。

 

【5 財務ハイライト】

FY2024実績:売上高8兆4,964億円、営業利益3,610億円(営業利益率4.2%)。

FY2025(2025年3月期)会社計画:グループ利益を3,000億円超積み増し、ROE10%以上を2029年3月期に達成する中期目標を掲げています。

 

【6 今後の課題と展望】

1 EVバッテリー競争:CATL・LG勢とのコスト競争、次世代4680セル量産対応が急務

2 コネクト拡大:物流DXや映像制作向けのサブスク化で安定収益を伸ばせるか

3 Lifestyle再成長:国内少子高齢化で住宅需要が縮む中、アジア市場攻略をどう加速するか

4 環境戦略「Panasonic GREEN IMPACT」:2030年までにCO₂排出ネットゼロ工場を100カ所へ拡大し、ブランド価値向上を狙います。

 

【7 投資家への示唆】

・短期はEnergy依存度が高く、テスラ生産計画の変動がボラティリティ要因

・中期的にはROE改善シナリオが株価上昇余地を生む一方、構造改革の遅れがリスク

・セグメント別EBITを注視し、B2B比率拡大が実現するかが評価ポイント

 

【まとめ】

パナソニックは「家電の松下」から「B2B×エネルギーのPanasonic Holdings」へ転身中です。華々しい栄光と痛烈な失敗を経た同社が、持株会社体制と電池事業を軸にどこまで収益力を高められるか──2020年代後半が真価を問われる勝負どころと言えるでしょう。

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