日本の造船業は、ここ数年で“防衛・エネルギー・脱炭素”という三つのメガトレンドを同時に追い風に受け、再評価のステージに入った。三井E&Sと川崎重工業(川重)の動きを軸に、その背景と波及効果を整理する。
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1 複合ニーズが生む需要の質的変化
ロシア・ウクライナ情勢や台湾海峡リスクが引き金となり、防衛艦艇の国内調達が加速。さらに、エネルギー安全保障の観点からLNG船を中心とした高付加価値船の新造需要が活発化している。加えて IMO 規制強化と各国のネットゼロ宣言により、環境対応型船舶の建造が急務となったことも大きい。
2 LNG船と防衛艦の受注急増
川重の2024年度決算説明資料では「防衛省向け潜水艦や LPG/アンモニア運搬船の受注増」が受注高を押し上げたと明記され、同社の船舶・海洋部門が再び成長ドライバーに返り咲いていることが確認できる。
三井E&Sは LNG 燃料フェリー「さんふらわあ かむい」向けに FGSS(燃料供給装置)を提供し、LNGインフラ周辺機器で存在感を高めた。
3 世界の船価指数(BDI)と株価の連動
バルチック海運指数(BDI)は 2025年4月28日に 1,403ポイントまで上昇し、底打ち感が鮮明になっている。
指数の反発と歩調を合わせる形で海運大手の株価も堅調だ。商船三井(9104)は 5,200円台に回復し、2~3月の押し目を早々に埋めた。
日本郵船(9101)は LNG船への1.4兆円投資計画を発表し、1500億円規模の自社株買いも材料視されて株価は年初来高値圏へ。
4 造船株の投資妙味
三井E&Sは艦艇事業譲渡後に“防衛インフラ+LNG周辺機器”へ事業をシフトし、利益体質が改善。川重は「エネルギーソリューション&マリン」部門が過去最高益を更新し、高効率エンジンやアンモニア運搬船など脱炭素商材の厚みを増している。両社とも受注残高の質が変わりつつあり、需給逼迫気味の造船設備容量が株価バリュエーションの再評価につながりやすい。
5 まとめ
防衛と脱炭素という国家的課題が、新造船需要を底上げしつつ高付加価値化を促進している。BDI の反発と海運株の上昇が造船株の再評価を後押しする構図だ。投資家は「受注残高の質」と「環境規制対応力」に注目しつつ、三井E&S・川重と海運大手の動きをモニターすると、造船業復活の全体像がつかめるだろう。
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