――背景――
長期金利の上昇が続く欧米と対照的に、日本銀行の利上げは依然として視界に入らず、円安・インフレが定着しつつあります。この環境下で投資資金が向かい始めているのが、景気変動に強い内需ディフェンシブ、なかでも食品セクターです。22年から始まった「値上げラッシュ」は、原材料高を吸収するための苦肉の策でしたが、結果として“値上げ慣れ”が進み、製品単価の維持・引き上げが企業業績の底上げ要因になりつつあります。帝国データバンクは25年も1.5〜2万品目の追加値上げを想定しており、価格転嫁の潮流は当面続く見通しです。
――値上げ効果が数字に表れた主要メーカー――
・カルビー:25年3月期の売上高は3226億円(前年同期比6.4%増)、営業利益は290億円(同6.5%増)と過去最高を更新。連続増配も打ち出し、株主還元姿勢を強化しています。
・日清食品HD:値上げとブランド強化で売上収益は7713億円(同5.2%増)。既存事業コア営業利益も1.8%増とプラスを確保しました。
・味の素:売上高1兆5305億円(同6.3%増)、事業利益1593億円(同7.9%増)。調味料の単価上昇と数量増が利益を押し上げ、ヘルスケア事業も寄与しました。
――サプライチェーン全体への波及――
値上げのインパクトは卸や小売にも広がります。総合スーパー最大手イオンの25年2月期は営業収益が初の10兆円超え(同6.1%増)ながら、営業利益は2377億円と5.2%減。客数は確保できた一方、値上げ分を完全には転嫁できず粗利率が低下しました。
地域スーパーの決算では、北海道主要4社が「値上げ分を店頭価格に転嫁しきれず減益」と報じられ、資本力やプライベートブランド(PB)の有無で明暗が分かれています。
一方で、宅配食品サブスクのオイシックス・ラ・大地はBtoB領域拡大を掲げ、26年3月期にEPS1.7倍を目指す中期計画を提示。価格より「付加価値・提案力」で差別化し、インフレ環境下でも高成長を狙います。
――投資ポイント――
価格決定力:ブランド力とシェアが高い企業ほど、値上げ後の数量減少が限定的。日清食品「カップヌードル」、カルビー「ポテトチップス」などは需要弾力性が低く、利益改善が続く可能性。
コスト構造:大豆・小麦などの国際市況や為替リスクをヘッジできる体制の有無が中期的な差に。
小売との関係:卸・小売に値上げを受け入れさせる交渉力が株価モメンタムを左右。スーパー各社の決算を継続ウォッチし、転嫁圧力の強弱を確認したい。
ESG・健康志向:味の素のアミノサイエンス事業やオイシックスのサステナブル食材など、付加価値の高いヘルシー領域は構造的にマージンが厚い。
――まとめ――
足元の物価高は企業にとって逆風である一方、価格設定権を持つ食品大手にはむしろ追い風となっています。金融政策が動きづらく円安が長期化する限り、ディフェンシブ内需の代表格である食品セクターは「キャッシュフローが読める高配当&自社株買いテーマ」として、ポートフォリオの安定剤になり得るでしょう。決算発表が一巡した今こそ、銘柄ごとの値上げ効果とコスト構造を精査し、次の一手を検討してみてください。
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