市場全体の概況
2025年4月第1週(3/31〜4/4)は、米国発の貿易摩擦ショックによりグローバル株式市場が急落した週となりました。米トランプ政権が4月2日夕方(現地時間)に100年ぶりとも言われる厳しい関税措置を発表し 、これが引き金となってダウ平均やS&P500は2020年のコロナ危機以来の急落を記録しました 。特に4月3日(木)はS&P500指数が前日比-4.8%、NASDAQ総合は-6%とCOVID-19以来の下げ幅となり、4月4日(金)も下落が続いてNASDAQは直近高値比20%以上安の弱気相場入りとなりました 。日本株も連鎖的に暴落し、日経平均は週央から急落、週間で-9%と5年ぶりの下げ幅を記録して8ヶ月ぶり安値圏に沈みました 。以下では、この週のダウ平均と日経平均の株価推移を振り返り、その背景要因を分析します。また特に米国ハイテク(GAFA)と日米自動車セクターの個別株に焦点を当て、それぞれの動きと背後のニュース・市場要因を詳説します。最後に長期投資家に向けて今後の注目点や戦略的視点を述べます。
ダウ平均と日経平均の週間動向
図1: ダウ平均株価の週次推移(2025年3月31日〜4月4日)
図1は週内のダウ工業株30種平均の終値推移です。週前半(3/31~4/1)のダウ平均は、前週末のインフレ指標悪化による下げをいったん織り込んで小幅のリバウンドで始まりました 。しかし週央の4月2日(水)は、翌日に控えたトランプ大統領の「解放の日」演説(相互関税の詳細発表)を前に警戒感が強まり、ダウはやや上値が重くなりました。4月3日(木)には関税発表を受けて市場がパニックに陥り、ダウ平均は前日比-1,679ドル(-4%)と大暴落しました 。さらに週末4月4日(金)も中国など各国の報復関税発表による貿易戦争懸念で下げ止まらず、ダウは一時前日比-2,200ドル超まで売られ 、終値でも-1,953ドル(-4.8%)安となりました 。週を通してのダウ平均の下落率は約8〜9%に達し、週間ベースでは2020年3月以来の大幅安となっています。
図2: 日経平均株価の週次推移(2025年3月31日〜4月4日)
図2は週内の日経平均株価の終値推移です。週初の3月31日(月)は、前週末の米株急落(ダウ-700ドル超 )を受けて日経平均も1,500円超の急落(-4%)となり、約6ヶ月半ぶりに36,000円を割り込みました 。4月1日(火)は「悪材料出尽くし」期待から一時買い戻しが入り、日経平均は一時36,000円台を回復する場面もありました (図2でも4月1日に反発している様子が伺えます)。しかし4月3日(木)早朝、日本時間未明に発表されたトランプ大統領の相互関税の内容が市場予想を上回る過激なものだったため、東京市場もパニック売りに見舞われます。日経平均先物は夜間取引で急落し、現物の日経平均も寄り付きから35,000円割れで始まり、一時は33,000円台前半まで急落しました 。終値はかろうじて34,800円台まで戻したものの大幅続落となり、翌4日(金)も米国株の暴落と急速な円高進行を嫌気して日中に1,400円超下げる場面がありました 。結局、日経平均は4月4日に33,780.58円で引け、週間では-3,339円(-9.0%)の急落となりました 。これは2020年3月以来5年ぶりの週次下落率で、日経平均は昨年8月以来の安値水準に沈んでいます 。
背景: この週の日米株急落の直接要因は、トランプ政権による史上例のない広範囲かつ高率の関税措置でした 。米国は4月2日夕に「全ての輸入品に一律10%の基本関税+特定国への報復関税」を発表し、例えば中国からの輸入品に34%、EUに20%、日本に24%の関税を翌週から課すと表明しました 。さらに全ての輸入自動車に25%の追加関税を即時発動すると宣言し、自動車大国の日本やドイツに衝撃を与えました 。この発表により投資家は世界経済の先行きに強い不安を抱き、リスク資産から安全資産へ一斉に資金を移す動きが加速しました。安全通貨とされる円が急騰したことも日本株安に拍車をかけ、特に輸出株中心の日経平均には逆風となりました 。また同時に、米3月のインフレ指標(PCEコア価格指数)の予想上振れや消費者マインド低下も伝わり 、「景気減速+インフレ」(スタグフレーション)の懸念が高まったことも株売りを加速させました 。結果として株式と商品・原油までほぼ全てのリスク資産が売られ、わずか2営業日でS&P500企業の時価総額約4兆ドルが吹き飛ぶ史上例のない大損失となりました 。以上が週内の株価指数の動きとその背景の概要です。
米ハイテク株(GAFA)を中心とした動き
図3: GAFA主要銘柄の株価指数(週次推移、2025年3月31日終値=100)
米国の代表的ハイテク株であるGAFA(Google/Alphabet、Apple、Facebook/Meta、Amazon)も、この週に軒並み急落しました。図3はGAFA4社の株価推移を指数化したものですが、週前半は小動きだったものの、4月3日(木)から4日(金)にかけて一斉に急降下しているのが分かります。実際、関税ショックが表面化した4月3日の取引では、AppleやAmazon、Meta(Facebook)はそれぞれ株価が前日比約-9%と急落し、NVIDIAなど他のハイテク株も7%前後の大幅安となりました 。GAFA銘柄は巨額の時価総額を抱えるため指数への影響も大きく、これらの下落がNASDAQ総合指数を弱気相場に押し込む原動力となりました 。
ハイテク株急落の背景には、まず関税リスクによる業績への懸念があります。Appleなどは製品製造の多くを中国に依存しているため、中国からの輸入品に34%もの関税が課されると利益圧迫は避けられません。またAmazonも膨大な商品在庫を世界から調達・販売しており、関税コスト増は小売事業や消費者需要に打撃となります。Alphabet(Google)やMetaは物理商品とは直接関係ないものの、世界経済の減速による広告出稿の落ち込みなど間接的な影響が懸念されました。さらに金利上昇やインフレ加速への警戒もハイテク高PER銘柄には重荷です。米FRBのパウエル議長は「関税はインフレと失業を押し上げるリスクがある」と警告しました が、一方でトランプ大統領はFRBに利下げ圧力をかけており 、金融政策の不透明感も増しています。こうした環境下でハイテク市場を牽引してきた“マグニフィセント7”銘柄への投資家の楽観は崩れ、実際NVIDIA株は1~3月期に13%下落するなど「もはや逆風に耐えられない」状況でした 。その脆弱な市場心理に今回の関税ショックが追い打ちをかけた形です。
個別に見ると、Apple株は週末までに約15%下落し、サプライチェーンの中国依存リスクを嫌気されました 。Amazonも同様に約15%安となり、関税コスト増による消費低迷懸念で売られています 。Meta(Facebook)株も約9%下落し、こちらはEUからの報復関税や規制強化リスクも意識されました 。一方、Alphabet(Google)株も高値から約12%下落したとみられます。Googleは中国市場に直接依存しないものの、クラウドや広告事業への景気逆風が懸念されています。なおTesla(テスラ)株はハイテクであり自動車でもありますが、この週の動きは他のハイテクとやや異なりました。トランプ政権の関税策で海外EVメーカーが不利になるとの思惑から、テスラ株は発表直後に一時+5%超と急伸しました 。イーロン・マスク氏が政権顧問を務めることもあり市場は恩恵を期待しました。しかしその後の全体相場悪化には逆らえず、結局テスラも週末には週初比で数%の下落となっています 。このようにGAFAを中心とする米ハイテク株は大きく値を崩しましたが、裏を返せば多くの銘柄が短期間で10~20%割安になったとも言えます。長期投資の観点では、これら巨大IT企業の中長期的な収益力や技術革新力はなお健在であり、今回の急落は将来的な仕込み好機と見る向きもあります(後述)。
日本・米国の自動車セクターの動き
図4: 主要自動車株の株価指数(週次推移、2025年3月31日=100)
関税ショックは自動車セクターにも直撃しました。図4は日本(トヨタ、ホンダ)および米国(GM、テスラ)の主要自動車メーカー4社の株価推移を指数化したものです。米国の追加関税25%が「自動車」に即時適用されることが明らかになると 、輸出に頼るトヨタ・ホンダなど日本車メーカー株は急落しました。トヨタ自動車株は週を通じて約10%以上下落し、特に関税発表直後の4月3日に東京市場で5%以上急落しています 。ホンダ株も週内に4〜5%程度下落しました(図4)。一方、米国ビッグ3ではゼネラル・モーターズ(GM)株が-8.2%と最大の下げを記録し 、フォード株も-4.2%下落しました 。これは米自動車各社も北米域内で部品調達・生産を行っており、関税によるコスト増に晒されるためです。「自動車は完成までに一部工程が複数の国境を行き来する。幅広い関税はその分だけコスト増を招く」と指摘され 、主要メーカーは車両価格引き上げを迫られる可能性があります 。消費者も既に新車価格の高騰に直面しており、販売減速リスクが意識されました。
興味深いのはテスラ株の動きで、図4ではテスラ(ピンク線)が週初から相対的に堅調だった様子が見て取れます。前述の通りテスラは米国内生産比率が高く、関税の直接打撃を受けにくいことから発表直後は買い優勢となりました 。しかしマーケット全体のリスクオフには抗しきれず、週末には上昇分を失って若干の下落で引けています。米自動車株は当初「国内メーカー有利」と見られたものの、結果的には軒並み売り込まれる展開となりました 。GMはメキシコやカナダからの輸入完成車比率が高く(約40% )、ビッグ3の中で最も悪影響が大きいと分析されています。一方フォードは域外調達が1割未満と限定的で影響が小さいとされましたが 、それでも株価下落は避けられませんでした。日本勢ではトヨタが米国販売台数で首位ゆえ警戒売りが強く、ホンダは北米現地生産比率が高めな分だけ下落率は抑えられました。日産自動車も同様で、北米向け高級車のメキシコ生産分輸出を停止するなど早速対応策を取っています 。このように関税の直撃を受ける自動車セクターは全般に売りが優勢でしたが、米テスラだけは相対的に小幅安に留まる展開でした 。
背景: 自動車株急落の直接要因はもちろん米関税策ですが、その裏には構造要因もあります。米・欧・日の完成車メーカーは長年にわたりサプライチェーンのグローバル化を進め、完成車や部品を相互に融通する体制を築いてきました 。今回のような高関税はその前提を覆すものであり、各社の生産コストを大幅に押し上げる潜在的破壊力があります。JPMorganは「関税がすべて最終消費者への価格転嫁なしにコスト増となった場合、世界の自動車業界全体で年間820億ドル(約11兆円)の負担増になる」と試算しています 。このような負担増は、為替やコスト効率化で容易に吸収できる規模を超えており、メーカー各社の利益圧迫は避けられません。さらに値上げは販売減少を招き、米国でも高値にある新車販売が一段と冷え込む恐れがあります 。株式市場はこれらを先回りして織り込み、自動車株を売り浴びせた形です。ただし関税の悪影響度には各社で温度差もあります。米政権の措置は当初カナダ・メキシコは対象外と噂されましたが(結果的には全地域一律課税) 、フォードやFCA(現ステランティス)のように北米生産に集中する企業は相対的にダメージが小さいとの見方もあります 。そのためフォード株の下げはGMほどではなく-4%程度に留まったわけです 。また日本メーカーも現地生産率を高めることでリスク軽減を図ってきており、ホンダのように既に米国生産比率が高い企業は相対的に売りが穏やかでした。一方、テスラに関しては「関税で競合他社が不利になり相対優位が高まる」との思惑が働きました 。このため短期的には買われましたが、テスラ独自の課題(イーロン・マスク氏の政治色による一部消費者離れなど )もあり長続きしませんでした。全般として自動車セクターは関税の直撃を受けましたが、同時に各社は迅速に対応策を模索し始めています。日系メーカーは生産地見直しや値引き対応を検討し、米GMは早くも「インディアナ工場の生産増強」を発表するなど対策に乗り出しています 。将来的にはサプライチェーン再編や現地生産拡大が進み、中長期的な収益構造に変化が生じる可能性があります。
長期投資家への注目ポイントと戦略
以上のように、関税ショックによって株式市場は短期的に大きく荒れました。しかし長期投資の視点では、目先の混乱の中にも今後注目すべきポイントや戦略的示唆が見えてきます。
• 貿易交渉の行方とリスク緩和の可能性: トランプ大統領は関税発動翌日の4月3日、「他国が驚くような提案をしてくれば関税引き下げに応じる用意がある」とも発言しており 、今後各国との交渉次第では関税が一部緩和される可能性もあります。実際、政権内でも株価急落には神経質になっており、財務長官のベッセント氏は「今回の市場急落は大統領の政策というより中国のAI台頭でハイテク株が崩れた影響だ」と述べてマーケットの警戒を逸らそうとしました 。議会でも超党派で大統領の関税権限を制限する動きが出ています (可決は困難との見方)。長期投資家にとっては関税問題がどの程度恒久化するかを見極めることが重要です。仮に数ヶ月以内に米国と主要貿易相手国の妥協点が見出されれば、今回売り込まれた株式は急速に見直される可能性があります。一方で交渉が難航し関税が長期化する場合、各国経済・企業業績への深刻な影響が避けられず、さらなる下落リスクに備える必要があります。
• 金融政策と景気動向の注視: 関税による物価押し上げと景気減速リスクに対し、米FRBや日銀がどのように対応するかも焦点です。パウエルFRB議長は様子見姿勢を示していますが 、トランプ大統領からの利下げ圧力も強まっており 、今後の金融政策は読みづらい局面です。仮に景気下支えのため米国が早期利下げに動けば、グロース株(特にハイテク)には追い風となり、今回下げたGAFA株も再評価されるでしょう。日本でも日銀の上田総裁が「関税が経済に与える影響を精査する」と述べ、金融緩和の長期化も示唆しています 。超低金利環境が続けば、配当利回りや業績の安定した株式には資金が戻りやすくなると期待されます。
• GAFA・ハイテク株の長期見通し: GAFAをはじめとする米大型ハイテク企業は、一時的な株価急落に見舞われましたが、その中長期的な収益基盤は依然強固です。例えばAppleやAmazonは潤沢なキャッシュを抱え、クラウドやサービス分野の成長も続いています。Alphabet(Google)も検索・広告に加えクラウドやAIへの先行投資で中長期の成長余地があります。Meta(Facebook)もユーザー基盤は盤石でメタバースなど新分野開拓に意欲を示しています。今回の下落でPERなどバリュエーションは割安方向に振れており、長期投資家にとっては押し目買いの機会とも言えます。実際、米投資誌バロンズは「Magnificent 7が叩き売られた今、AmazonやAlphabetなど4銘柄は長期的に買い場」との見方を示しています 。もっとも不確実性も残ります。特にAI技術をめぐる競争では、中国発の安価な高度AIモデルが登場するなど(例: DeepSeek )、米ハイテク独走に陰りも見え始めています。長期投資ではGAFA各社の技術開発動向や規制リスクも注視しつつ、ポートフォリオを組む必要があるでしょう。
• 自動車セクターの長期戦略: 自動車業界は電気自動車(EV)シフトやコネクテッド技術など構造転換期にあります。今回の関税問題は短期的には痛手ですが、一方で各社が生産・販売戦略を見直す契機にもなり得ます。例えば日本メーカーは北米生産拠点の拡充を加速させ、将来の関税リスク低減を図るでしょう 。米ビッグ3もサプライチェーンの国内回帰やコスト構造の改善に動く可能性があります。またEV市場ではテスラが政治的追い風を得る一方で、欧州勢や新興国勢も巻き返しを図るでしょう。長期投資家は各メーカーの戦略対応力を見極める必要があります。関税逆風下でも値上げによる利益確保や他市場でのカバーができる企業、また電動化や自動運転といった次世代領域に投資余力のある企業が生き残りそうです。幸いトヨタやホンダは堅実な財務基盤があり、今回の株安で配当利回りは上昇しています。過度に悲観的にならず、安定配当を享受しつつ将来の回復を待つ戦略も有効でしょう。
• 分散投資とリスク管理: 最後に、長期投資において改めて重要なのは分散投資とリスク管理です。今回のように予期せぬ政策ショックが起きると、特定セクターに集中したポートフォリオは大きな痛手を被ります。GAFAと自動車はいずれも市場の主要部分を占めますが、長期投資家はそこに固執せずセクターや地域を分散することでリスクを平準化できます。例えば関税の影響が軽微な内需型産業(通信や公益、ゲーム・コンテンツなど)は比較的底堅い動きを見せました 。実際、日本市場では「アニメ・ゲーム株など関税の影響を受けにくい内需株に注目」との声もありました 。今後も地政学リスクや政策リスクはつきものです。長期視点では、一時的な混乱に動じない銘柄選別とともに、ポートフォリオ全体でショックに耐えうる体制を整えることが肝要でしょう。
以上を踏まえ、この週の急落局面は確かに痛みを伴いましたが、その陰で浮かび上がった優良企業の割安化や各社の対応力は、長期投資家にとって新たな検討材料となりました。足元のボラティリティは高いものの、経済の基調や企業のファンダメンタルズが大きく崩れていない限り、時間分散で段階的に投資を進める戦略も有効です。不確実性の高い局面こそ冷静に情報を分析し、長期的視野で投資判断を下していくことが求められるでしょう。
参考資料: 関連ニュースやデータはロイター通信 やAP通信 、日本経済新聞、Investopedia などを参照しました。今後もマーケット動向や政策の行方に注意を払いながら、中長期の視点で腰を据えた投資を続けていきたいところです。
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