日枝久氏とは?
生い立ち・経歴
• 1937年(昭和12年)生まれ。
• 大学卒業後、ラジオ局であるニッポン放送へ入社し、そこからフジサンケイグループ各社に携わるようになります。
• ニッポン放送時代にはラジオパーソナリティーの番組担当、報道・編成などさまざまな部署を経験。
• その後、フジテレビに移り経営幹部として力を発揮し、1993年(平成5年)にフジテレビ社長に就任。
• フジテレビの社長・会長、さらには親会社であるフジ・メディア・ホールディングス(旧・フジサンケイグループ)会長など要職を歴任。
日枝氏はバブル経済崩壊後の厳しい時代を含め、フジテレビの経営を支えた人物として長くグループに携わり、トップとして影響力を行使してきました。
主な功績
1. 「楽しくなければテレビじゃない」のキャッチフレーズの象徴的存在
• フジテレビは1980年代後半から1990年代にかけて視聴率で他局を圧倒し「視聴率三冠王」と呼ばれた時期があります。
• バラエティ番組やドラマのヒット作を多数生み出し、当時フジテレビの社内で掲げられていた「楽しくなければテレビじゃない」というスローガンが象徴的でした。
• 日枝氏自身もエンターテインメント路線を重視し、視聴率競争を牽引したといわれます。
2. 多角化・グループ戦略の推進
• 放送業界は競争が激化する中で、テレビだけでなくイベントや映画、音楽事業など多角的にメディア展開を図らねば生き残れない時代になりました。
• フジサンケイグループという大枠の中で各社を統合し、親会社であるフジ・メディア・ホールディングスを中核として、グループ戦略を打ち出したのも日枝氏の指導力によるところが大きいです。
3. 放送と通信の融合を見据えた取り組み
• インターネット配信サービスや携帯電話との連携など、新しいプラットフォームへの進出にも積極的でした。
• ただし、NHKや他局も同様に動いていたため、必ずしもフジテレビが圧倒的トップを維持できたわけではありませんが、早い段階から番組のインターネット配信やBS・CSへの注力を進めた功績は評価されています。
指摘された問題・課題
1. 経営への長期関与と「ワンマン体制」への批判
• 日枝氏は社長・会長と30年近く経営トップとして関わり続け、グループ内で非常に強い影響力を持っていました。
• 長期政権化したことで、後継者育成や若手の発言力不足が課題視された時期もあります。
• 特に変化の激しいメディア業界において、トップ人事の固定化がイノベーションを遅らせたのではないかという指摘もありました。
2. ライブドアとの攻防に絡む問題
• 2005年頃のライブドアによるニッポン放送株買収問題は、フジサンケイグループに大きな波紋をもたらしました。
• 当時、堀江貴文氏(ライブドア)とフジテレビが対立する形になりましたが、フジテレビ側は“地上波の支配権”を巡って必死に防衛策を講じました。
• 結果的にはフジテレビ側がニッポン放送株を確保し、ライブドアとの直接対立は回避されましたが、その過程での経営判断や情報開示のあり方について、疑問を呈する声が出ました。
3. コンプライアンス・番組制作における問題
• 長年にわたりバラエティ番組や情報番組でのやらせ疑惑や、倫理的に問題視される演出などが一部で批判対象となってきました。
• ただ、これはフジテレビ固有というよりはテレビ業界全体で起こっていた問題でもあります。
• しかし、トップとしてコンプライアンス体制を整備していく責任は重く、経営者としてのリーダーシップに対しては厳しい目も向けられました。
4. 視聴率低迷への責任
• 2000年代中盤以降、フジテレビは以前のように圧倒的な視聴率を取ることが難しくなり、年間視聴率で日テレやTBS、テレビ朝日などが台頭してきました。
• 「フジらしさ」が薄れた・時代に合わせた編成ができなかったなどの声もあり、その点では経営トップとしての責任を問われることもありました。
引退のニュースと今後の展望
2023年以降、複数のメディアで「フジテレビの日枝久氏が引退へ」という報道が流れました。長年グループの“顔”といっても過言ではない人物が一線を退くことは、フジサンケイグループの大きな転換点となります。
• 今後は名誉職や相談役のような立場で残る可能性があるとも報じられましたが、表向きの役職からは退き、一歩後ろに下がる形が想定されています。
• 長きにわたって影響力を持ってきたリーダーが退くことで、新しい人材の登用や経営改革がより進みやすくなるという期待もある反面、これまで日枝氏が培ってきた豊富な人脈・ノウハウを失うリスクも指摘されています。
フジテレビ自体はネット時代の本格化とコンテンツ流通の多様化によって、これまで以上に厳しい競争にさらされています。地上波という枠組みや従来のビジネスモデルにとらわれず、柔軟な発想で番組制作やコンテンツビジネスを展開しなければならない局面です。今後は、テレビ×ネットの融合や海外展開なども含めた大きな戦略シフトが重要になるでしょう。
まとめ
• 日枝久氏はフジテレビの最盛期を築きあげた経営者であり、グループの長期安定と事業拡大に大きく貢献しました。
• 一方で、長期政権ゆえの課題やライブドア事件など、波乱含みの出来事も多くありました。
• 近年の視聴率低迷やネット時代への対応の遅れなどが目立つ中、日枝氏の“引退”はフジテレビにとって新たな方向性を模索するきっかけとなる可能性があります。
フジテレビが「楽しくなければテレビじゃない」をもう一度取り戻し、かつ新時代に合ったエンターテインメントを生み出せるかどうか。日枝氏が去った後こそ、次の経営陣の腕の見せ所でしょう。
今後もフジテレビと日枝氏の動向が、メディア業界に与える影響は小さくありません。テレビ業界の地殻変動がさらに加速する中で、一つの時代を担ってきたトップがどのように「レガシー」を残していくのか、そして新時代を担う人物がどのように道を切り開いていくのか注目したいところです。
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