#630 楽天モバイル巨額赤字からの反転 ― 通信事業再建に見る“赤字事業”立て直しのリアル

序章

楽天グループは2024年度決算で5年ぶりに連結営業黒字へ転じたものの、モバイル部門は依然として巨額赤字を抱えています。三木谷浩史会長兼社長は「2025年度通期での黒字化は実現可能」と公言し、約1,500億円の追加投資を決断しました。  本稿では、楽天モバイルの赤字縮小プロセスを「コスト構造改革」「ARPU向上」「顧客基盤拡大」「資金調達・外販ビジネス」という四つの軸で読み解き、投資家が押さえるべき示唆を整理します。

 

巨額赤字の背景と黒字化ロードマップ
 ・2024年度のモバイル売上は4,407億円(前年比+20.9%)で、営業損失は前年から1,056億円改善しましたが、なお2,163億円の赤字が残っています。
 ・2024年12月にEBITDAが単月黒字へ転じ、2025年度通期黒字の条件が整いつつあります。 
再建の四本柱
 2.1 ネットワーク投資とコスト構造改革
  ― フルクラウド型・オープンRANアーキテクチャにより、基地局1局当たりのCAPEXを従来比30〜40%削減、運用コストも約30%圧縮しています。
  ― 2025年度の追加投資1,500億円でプラチナバンド帯域を活用し、通信品質指標(平均下り速度・接続率)のKDDI比95%水準を目指します。 

 

 

 2.2 料金プラン刷新とARPU底上げ

  ― 2023年に完全無料区間を撤廃し、最低月額980円の「Rakuten最強プラン」へ一本化。5G大容量ユーザー獲得が進み、データARPUは2024年に前年同期比8%上昇しました(非公開スライドベース)。

  ― モバイル契約者は楽天市場購入額+50%、楽天カード利用額+30%の“エコシステムARPU”を生み、グループ全体収益の押し上げ要因になっています。

 

 2.3 顧客基盤拡大策

  ― 2025年2月に契約回線数が850万を突破。春の応援キャンペーンで18歳以下の純増が前年比1.5倍と、若年層を取り込みました。

― 2025年内に「1,000万回線」を超えると宣言し、地方量販店への販促費増額とホームルーター「Rakuten Turbo 5G」での世帯取込みを進めています。

 

 2.4 資金調達とバランスシート改善

  ― 2023年の楽天銀行上場で約720億円を現金化し、2024年4月のドル建て・円建てシニア債でリファイナンスリスクを大幅に低減。

  ― 2023~24年に計2,950億円の増資を行い、うち約1,883億円をモバイル子会社へ資本注入してネットワーク投資原資を確保しました。

 

外販ビジネス「Rakuten Symphony」の可能性
 オープンRAN・自動化プラットフォームを海外キャリアへ提供し、2024年時点で14件の商用契約を獲得、売上は4.76億ドル規模。営業利益率はグループ内で最も高く、モバイル設備投資の知見を換金化する“第2の収益源”として期待されています。 
黒字化シナリオと残るリスク
 【達成条件】
  (1) 契約1,000万回線、データARPU月1,800円台
  (2) 年間CAPEXを1,500億円程度で頭打ちにし、減価償却負担がピークアウト
  (3) Symphony売上が年間700億円規模へ拡大し、固定費を相殺
 【リスク要因】
  ・プラチナバンド整備の進捗が遅れた場合の品質不満・解約率上昇
  ・競合キャリアの値下げ再攻勢によるARPU伸び悩み
  ・高止まりする金利環境下での追加資金調達コスト

 

 

まとめ ― 投資家への示唆

楽天モバイルの再建は「テック主導の構造改革+エコシステム型ARPU拡張」の両輪で進行中です。2025年度の黒字化達成可否は、契約者1,000万・ARPU底上げ・CAPEX抑制という三つのKPIに集約されます。事業が計画線をトレースできれば、グループの信用リスク低下とFintech部門の成長余地が開き、中長期的な株価リレーティング余地も生まれるでしょう。反面、設備投資や資金調達の遅延が生じれば評価は一段と厳しくなるため、四半期ごとのKPIウォッチが欠かせません。

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