1.何が起きたのか
米国時間5月23日、ドナルド・トランプ大統領はTruth Socialで「US Steelはアメリカに残り、本社もピッツバーグに置いたまま、日鉄とのパートナーシップで7万件の雇用と140億ドルの投資をもたらす」と発表。事実上、日鉄(Nippon Steel)による140億~149億ドル規模の買収案を承認する姿勢を示しました。
2.承認の裏側――CFIUSと“条件付き”
・国家安全保障を所管するCFIUS(対米外国投資委員会)は5月21日に勧告書をトランプ大統領へ提出。大統領は15日以内に最終判断する建付けですが、今回の発表は「米国人が取締役の過半を占め、政府監督下で投資を実行する」など複数の条件を付した“パートナーシップ”形式での承認とみられます。
・バイデン前政権が国家安全保障を理由に阻止した経緯があり、政権交代でスタンスが一変した点が投資家の注目を集めています。
3.市場の反応――USスチール株は急騰
発表直後、USスチール(ティッカー:X)の株価は一時21%高。買収提示額55ドルに急接近しています。現在値は52.01ドル(5月24日終値ベース)。
・高騰の理由
― 買収成立への“最後のハードル”が実質的に解消
― トランプ政権による鉄鋼関税強化シグナルで収益環境が改善との思惑
― 140億ドルの設備投資(うち40億ドルは新製鉄所)というポジティブサプライズ
4.米国内の政治・雇用リスク
・トランプ大統領はピッツバーグで5月30日に大規模集会を予定し、ラストベルト(鉄鋼地帯)の雇用創出をアピール。
・一方、全米鉄鋼労組(USW)は依然として「日本企業の買収は賃金圧迫と不当廉売につながる」と反対声明。労務交渉や労組・共和党の駆け引きが残る火種です。
5.日鉄にとっての戦略的メリット
・国内需要低迷とグリーン鋼材投資負担を補うため、世界最大級の高付加価値市場(米国)にフルラインで参入できる
・USスチールの老朽設備を更新し、製造コストを20〜30%削減できる余地
・米国境内での製造体制強化によりIRA(インフレ抑制法)補助金や優遇税制の恩恵を受ける可能性
6.投資家目線:注目ポイントとリスク
● 注目ポイント
・CFIUSが求めるガバナンス・投資履行モニタリングの詳細
・トランプ政権が示唆する追加鉄鋼関税の規模と対象国
・統合後キャッシュフローとシナジー効果(高級鋼種比率の引き上げなど)
● リスク
・買収完了前に労組訴訟が長期化するシナリオ
・対中関係悪化に伴う資材コスト高、輸入規制への波及
・日鉄の財務レバレッジ拡大(EV/EBITDAで3倍超への跳ね上がり)
7.まとめ
今回の「条件付き承認」は、
・ラストベルトの雇用と製造業復活を掲げるトランプ政権
・脱炭素と需要縮小に苦しむ日本の鉄鋼大手
・設備老朽化で競争力を失いかけていたUSスチール
それぞれの利害が“ギリギリで合致”した結果と言えます。最終クロージングまでは労組対応や追加条件が残るものの、買収実現なら世界鉄鋼業界の勢力図が塗り替わる可能性大。投資家は今後数週間の規制当局の正式文書と、日鉄が公表する統合後の設備投資計画を注視すべき局面です。
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