【Executive Summary】
PBR0.6倍台に沈むフジ・メディア・ホールディングス(FMH)は、放送収入の漸減と巨大な眠れる資産(政策保有株・都市開発不動産)とのギャップが評価を阻んできた。2024年末以降、米ダルトン・インベストメンツ/Nippon Active Value Fund(NAVF)連合が5%強を取得し、資産売却と取締役刷新を求める株主提案を連打。会社側も2025年5月に「改革アクションプラン」を公表し、①3年内に1,000億円超の政策株売却、②26年6月めどの指名委員会等設置会社化、③29年度までに1,000億円超の自社株買いを掲げた。
【1 依然残る割安評価】
・時価総額はおよそ2,800億円(5月23日終値ベース)。保有上場株と有利子負債をネットすれば“純現金+有価証券”だけで時価総額の7割弱に相当するとの民間試算もある。
・都市開発セグメント(サンケイビル)は賃貸等不動産だけで簿価3,362億円、含み益を加味すると4,500億円超との業界推計。にもかかわらず“メディア株ディスカウント”が抜けない。
【2 オペレーションの実像】
①放送・メディア
– 2025年3月期3Q累計売上1,819億円(前年同期比+1.1%)、営業益は43億円→8億円へ急減。番組制作費は抑制したが、催事・映画の反動減とコンプラ対応費が重荷。
– スポット広告は+1.7%と民放キー局では最も鈍い伸び。視聴率ランキングでも個人3%超の番組が限定的でスポンサー単価の上値は重い。(株式会社ビデオリサーチ)
②デジタル&配信
– 配信広告(TVer等)とFOD課金を合わせた配信関連収入は221億円、前年同期比+39%と高成長。AVOD2冠(再生数・視聴時間)を3年連続維持。
③都市開発
– サンケイビルは賃貸収入増で下支えしつつ、物流倉庫「SANKEILOGI」シリーズや高稼働レジデンス「ルフォンプログレ」を展開。賃貸等不動産の含み益がROIC改善のカギ。
【3 ガバナンス刷新ロードマップ】
・独立社外取締役を過半数に引き上げ、女性比率45%、平均年齢引き下げを6月株主総会で実施予定。
・相談役・顧問制度撤廃/取締役12→11名へ減員/後継者プール策定。
・役員報酬は株式報酬比率を拡大し、エンゲージメントスコア連動を導入。
【4 アクティビスト側のシナリオ】
NAVFはSBI北尾吉孝氏ら12名の取締役就任を株主提案。要求メニューは①不動産事業分離上場、②3000億円規模の政策株売却、③ガバナンス統治型の取締役会へ全面刷新。(Bloomberg.com)
【5 バリュエーション試算(SOTPイメージ)】
・放送事業(地上波+FOD) EV/EBITDA 6倍:1,200億円
・都市開発(サンケイビル) NAVディスカウント20%で3,600億円
・政策保有株(保有45銘柄)時価2,300億円
・ネットキャッシュほか700億円
→ 合計7,800億円。発行済株式数3.3億株換算で1株2,360円。現在株価2,550円は“資産開放シナリオ”を株価がほぼ織り込みつつも、実行スピード次第で上振れ余地が残る。
【6 カタリストカレンダー】
・2025年6月25日:定時株主総会(議決権行使助言会社の勧告次第でサプライズ可)
・2025年10月:半期決算で政策株売却進捗公表、第1弾売却観測。
・2026年4月:指名委員会等設置会社移行予定、買収防衛策の有無に注目。
・2027年3月期末:政策株売却1,000億円完遂目標。
【7 リスクチェック】
・番組倫理問題によるスポンサー離脱が続くと広告単価リバウンドが遅延。
・不動産市況悪化でNAVとキャッシュ創出想定が下振れ。
・政策株売却が市場需給を圧迫し、売却益課税でROEが思うほど伸びない可能性。
【8 投資ストラテジー】
短期:総会前後の“イベント・ドリブン”で議決権賛成率を材料にしたボラティリティ狙い。
中期:政策株売却と自社株買いの実行比率をチェック。25%進捗ごとにSOTP価値を再計算し、割引率収斂で1倍超へ。
長期:配信領域と都市開発の成長性をベースに、PBR1.2倍・ROE8%水準までのストラクチャル変革を追う。
まとめ
フジ・メディアHDは「アクティブ・マネージャーが最も数字にしやすい資産解放テーマ」へ変貌した。放送ビジネス単体では高成長は望みにくいが、ガバナンス改革と資本再構築が同時進行するいま、実行スピードこそが株価のトリガーとなる。ダルトンとNAVFが投げかけた「メディア資産再編」は、FMHのみならず民放全体の資本効率見直しの起爆剤となり得るだろう。
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