(はじめに)
2025年のタイは、名目GDP成長率が1.8%前後とアジアの中ではやや低めのスタートですが、政府支出の拡大と観光業の回復が支え手となり、底堅さを維持しています。民間債務の重さや外需の不透明感という課題を抱えつつも、製造・物流・観光の三分野に政策資金が集まり、日本企業にとっては「第二のチャイナプラスワン」を具体化する好機といえます。
(1)東部経済回廊(EEC)――FDI急増と日系企業の再拠点化
・1~4月の外国直接投資認可額は前年同期比43%増の578億バーツ。その3割を占めるEECには日本企業だけで32社・約100億バーツが新規進出を決定しました。物流網の整備と港湾・空港一体運営の利便性が評価されています。
・3空港高速鉄道(ドンムアン―スワンナプーム―ウタパオ)は契約修正が完了し、2025年4月にも着工見込み。開業後はEECから首都圏まで2時間圏となり、工業団地とバンコクCBDがシームレスにつながります。
・日本・タイ両政府はEECオフィスとJETROが「グリーン投資センター」を設置し、カーボンニュートラル関連プロジェクトを共同支援。日本の部材・環境エンジ系中堅企業に新枠組みが開かれています。
(2)インフラ・EV産業支援策――政策インセンティブを追い風に
・EV補助金「BEV3.5」は車両輸入関税と物品税を最大40%相当減免し、24~25年導入分のメーカーに対し26~27年までの現地組立を義務付け。電池セルや部材を国内調達すれば追加助成を受けられる設計です。
・インセンティブの効果で中国系BYD・長安(CATL系)に続き、3月には深センのSunwodaが10億ドルの電池工場設立を承認され、1,000人規模の雇用を創出へ。
・既存日系も攻勢を強化。トヨタは25年末までにEVハイラックスを量産、ピックアップ主戦場のシェア維持を狙います。マツダはEECで150百万ドルの追加投資を発表し、ハイブリッド車ラインを増強予定です。
(3)観光・不動産の回復軌道――需要見直しと投資機会
・政府は「観光収入3.5兆バーツ」目標を掲げましたが、中国・ロシア市場の戻り鈍化で再設定を迫られています。それでも国内外ラグジュアリー需要は強く、バンコク中心部では高級MIXED用途案件が続々と着工。
・地方観光の再開発では、プーケット・チェンマイの空港拡張と高速道路延伸計画が進行。関連インフラのPPP案件で日本ゼネコン・商社が共同入札する動きもあります。
・ホテル・コンドミニアム開発では、日本の不動産AM(資産運用会社)が富裕層向け長期滞在施設のオフテイク契約を締結するケースが増加。円安メリットを享受しやすい投資商品として注目されています。
(4)投資家が押さえるべき注目セクター
A EVサプライチェーン:車体メーカーのみならず、電池材料(正極材・電解液)、冷却システム、BMS(電池管理システム)を扱う日系中堅部品メーカーは優遇税制+技術提携で参入余地が大。
B スマート物流:EECとマレーシア・ベトナムを結ぶ陸上複合輸送ルートが整い、倉庫オートメーション需要が拡大。自動倉庫・AGV・WMSベンダーに案件が増えています。
C 観光プラットフォーム:長期滞在ビザ(LTV)緩和に伴い、医療・ウェルネス、教育を組み込んだハイエンド向けサービスが成長。日本のヘルスケア・エドテック企業にパートナー要請が相次ぎます。
(5)リスクと留意点
・中国勢の攻勢:EVや半導体で中国系資本がシェアを急拡大しており、価格競争が激化。技術優位やアフターサービスで差別化が不可欠です。
・民間債務・家計負債:国内消費は伸び悩み、設備投資の回収期間が長期化するリスク。需要先多角化と財務余力の確保が重要になります。
・政策一貫性:政権交代ごとの補助金スキーム変更やタイムライン遅延があり得るため、投資契約時はBOI特典の確定条項と撤退条項の確認を推奨。
(まとめ)
2025年のタイは「物流・EV・観光」という三本柱で再成長シナリオを描いています。日本企業にとっては
1)EECインフラを基盤にした生産再編、
2)EV支援策を梃子としたサプライチェーン投資、
3)観光・サービス回復による不動産・消費関連の切り口、
の三層戦略を重ねることで中期的なリターンを狙える局面です。出張時は工業団地や港湾だけでなく、陸上物流ハブ、現地EV部品サプライヤーのネットワーク、富裕層向け不動産プロジェクトの現場を合わせて視察し、具体的なパートナー候補・提携条件を持ち帰ることをお勧めします。
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