【企業概要】
ADM(アーチャー・ダニエルズ・ミッドランド)
― 創業:1902年
― 本社:米国イリノイ州シカゴ
― 売上高(2024年12月期):855億ドル
― 事業:穀物集荷・加工、食品・飼料原料、バイオ燃料、健康・ウェルビーイング素材など
― 設立:1954年(登記1950年)
― 本社:東京都千代田区丸の内
― 売上高(2024年3月期換算:約1,300億ドル=約18兆円)
― 事業:食料、エネルギー、資源、モビリティ、インフラなど8つの事業グループを展開し、世界約1,300社のネットワークを保有
【提携の概要】
2025年3月28日、両社は「農業バリューチェーン全体にわたる協業可能性を探る」戦略提携に関するMOU(覚書)を締結した。短期的なサプライチェーン混乱と長期的な人口増加・経済発展・サステナビリティ需要の高まりを背景に、両社の強みを融合させてレジリエントな食料システムを構築することが狙いだ 。
【なぜ食料安全保障なのか】
1 供給源の多様化
ADMは米国第2位、ブラジル第3位の穀物輸出事業者であり、三菱商事は日本の穀物輸入の約20%を担う。提携により三菱商事の穀物取扱量は2030年までに現在比50%増の3,000万トンへ拡大すると報じられており、日本の調達先が質・量ともに拡充される 。
2 サプライチェーンの強靱化
両社は北南米・欧州・アジアにまたがる倉庫・港湾・輸送インフラを共有し、分散倉庫と可視化システムを組み合わせることで、地政学リスクや異常気象による分断時でも迅速な迂回輸送を可能にする。
3 新燃料・循環型投資
日本で義務化が進むバイオ燃料やSAF(持続可能な航空燃料)需要に対応するため、三菱商事は国内SAFプラント建設を計画し、ADMは米州のバイオエタノール・バイオディーゼル技術を供給する方針だ 。
4 デジタル化とトレーサビリティ
ADMの穀物トレーサビリティ基盤と三菱商事の商社系デジタル物流ノウハウを統合し、生産地から最終需要地までの温室効果ガス排出量や農薬使用履歴をリアルタイムで可視化。ESG投資・カーボンクレジットとの連動も視野に入る。
【投資家・市場へのインプリケーション】
・収益源の安定:需給逼迫時でも共同調達網を通じた安定供給でマージン圧縮リスクを抑制
・成長オプション:植物由来タンパク質、SAF、カーボンマネジメントなど高成長分野を共同開発
・ESG格付け向上:フードロス削減とサステナビリティ報告の充実で国際的投資マネーを呼び込みやすい
・リスク:規制変更、原料価格高騰、巨大災害時の同時被災、情報流出など
【今後の展望】
短期的には穀物物流・在庫連携で日本向け調達コストの平準化と在庫回転率の改善が見込まれる。中期的にはSAFや代替タンパク質への共同投資が、温暖化対策とエネルギー多角化を後押しし、長期的には「分散・透明・低炭素」をキーワードにした新しい食料安全保障モデルを示す可能性が高い。
結論
ADMと三菱商事の提携は、単なる穀物取引拡大を超え、燃料・資源循環・デジタル技術を一体化した包括的な食料安全保障の実装実験と言える。日本を含むアジアの食卓が気候変動と地政学リスクに直面する中、両社の動向は政策立案者・投資家・消費者すべてにとって今後の指針になるだろう。
コメント