【何が起きたのか】
・2025年1月の就任直後、トランプ大統領は「政府効率省(Department of Government Efficiency=DOGE)」を新設し、特別政府職員(Special Government Employee, SGE)としてマスク氏をトップに指名。
・マスク氏は130日の服務上限が課されるSGE制度の下で省庁統廃合や人員削減を進めたが、5月末で任期上限を迎えるため正式に離脱する運びとなった。
・ホワイトハウス内部ではトランプ氏側近のスージー・ワイルズ首席補佐官が「オーバーサイズな存在」を問題視。4月以降、閣議出席や執務室使用を制限し、事実上の“追い出し”が進んでいた。
【政府離脱の背景】
法的制約
SGEは年間130日を超えて勤務する場合、上院承認が必要。上院では民主・共和双方から利益相反や監視体制を問う声が強く、承認は極めて困難だった。
権力闘争と統治混乱
DOGEは「AIで官僚メールをスキャン」「OPM(人事管理局)を夜間ロックアウト」など急進策を連発し、各省から猛反発を招いた。
ワイルズ氏は「協調的な政府運営」を掲げ、マスク氏にホワイトハウス常駐を控えさせ電話連絡に格下げ。
政治リスクと調査
下院監視委・司法委はDOGEによるAI監視が連邦法違反の疑いと指摘。独立監察官も潜在的な罰金総額23億ドル超と試算し、政権に火種を残した。
投資家プレッシャー
TeslaはDOGE騒動への不買運動や中国BYDとの競争激化で2025年Q1利益が前年同期比71%減。取締役会も「本業回帰」を要求し、マスク氏は時間配分を見直すと約束した。
【今後のイーロン・マスクの動き】
・Tesla:6月株主総会で「Model 2(2万5,000ドルEV)」量産計画を再加速し、中国・欧州の価格競争に対抗。サプライチェーン再編を主導し物流コスト15%削減を掲げる見通し。
・SpaceX:Starship量産体制の加速と通信衛星Starlink分社化準備。年内にIPO観測が再燃する可能性が高い。
・xAI/X(旧Twitter):Grokを政府契約から切り離し、商用API販売と広告復活を狙う。DOGEで開発した省庁向けAIモジュールを「ガバメントクラウド版」として別法人へ供与する案も浮上。
・政治影響力:トランプ氏とは「非公式アドバイザー」として週1回の電話会議を継続予定。22年型大口献金の実績をテコに、規制緩和や宇宙開発予算でロビー活動を続ける。
・リスク要因:DOGE施策の法的責任追及(監察官報告、議会証言要請)、Tesla労組交渉、中国市場依存度の高まり、そしてSNS上での過激発言によるブランド毀損。
【投資家への示唆】
・短期的には「DOGE離脱=政治リスク低減」としてTesla・SpaceX関連銘柄のボラティリティは鎮静化しやすい。ただし販売減速と価格競争が続く限り、業績レバレッジの回復には時間を要す。
・中期的には「米政府発注から派生する宇宙・AI案件」が収益源として残るため、マスク氏の政界パイプ維持を過小評価すべきではない。
・長期的にはマスク氏の発言・行動が依然として株価の最大変動要因。DOGE型のハイリスク施策を再度持ち込む可能性を織り込んだポートフォリオ管理が必要。
まとめ
マスク氏の退場は「法的上限×官邸内パワーシフト×投資家圧力」という三重の必然だった。政府改革という劇場型プロジェクトは幕を閉じるが、彼が築いたAI・宇宙・決済インフラは政権と市場に残り続ける。マスク氏は“表舞台”を降りても、水面下で政策と産業構造に影響を及ぼし続けるだろう。
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