#585 ソフトバンク投資事業の現在地――Vision Fund停滞から生成AI特化へ再始動

【序論】

ソフトバンクグループ(SBG)の投資事業は、創業者孫正義氏の「情報革命の担い手」として急拡大してきた。しかしVision Fundの評価損が長期化し、2025年に入ってからは生成AIエコシステムへの大規模シフトが鮮明だ。本稿では、Vision Fund I/II の現状、Arm上場によるポートフォリオ再編、生成AIへの巨額投資、財務体力とリスク、そして次の焦点を整理する。

 

【1 投資部門の全体像】

SBGの投資ビークルは①Vision Fund I(約1,000億ドル規模、SBG出資約450億ドル)、②Vision Fund II(約560億ドル規模、SBG全額出資)、③SB Northstar等の社内投資枠、④Arm持分90%などで構成される。Vision Fund Iは累積では黒字を維持する一方、Vision Fund IIは未上場銘柄評価減で依然赤字領域にある。四半期ごとの損益が激しく振れる構造は改善していない。

 

【2 Vision Fund I/II の足元】

2024年9月期(FY2024 Q2)にはDidi・Coupang株高で6,080億円の評価益を計上し、1.18兆円の四半期純利益に貢献したが、2024年12月期(FY2024 Q3)は再び評価損が先行し24億ドルの赤字に転落した。利上げ局面で未上場テック企業のバリュエーション縮小が続く一方、ディール件数は2025年3月までの3か月で7件と徐々に回復している。

 

【3 Arm上場効果とポートフォリオ再編】

Armは2023年9月のNASDAQ上場後もSBGが約90%を保持し、2025年5月初旬の株価は121.95ドル。IPO価格比で2.3倍(時価総額約1,240億ドル)まで到達した2月ピーク(188.75ドル)から調整しているが、それでも保有価値は約11兆円に達し、SBGのネットアセットのボラティリティ要因となっている。

 

【4 生成AI投資への急旋回】

孫氏は「AIインフラ三国志」を掲げ、①OpenAIへの最大250億ドル出資交渉、②OpenAI・Oracleと組む米国データセンター計画「Stargate」(最大5,000億ドル)への15〜20億ドル自己投資+90%外部借入、③Perplexity AIとの日本市場共同展開などを同時進行させている。SBGは2025年3月末にOpenAI増資契約を締結済みで、75%をSBGが拠出する40億ドルラウンドを主導した。

 

【5 財務インパクトと資金調達】

2024年12月末時点の連結現預金等は3.06兆円と、同年3月末の4.56兆円から急減。AI関連投資の資金源確保のため、SBGは2025年4月に国内個人向け6000億円社債を発行し、さらに過去最大規模のリテール債計画も公表した。Alibaba株関連の社内取引決済で5,276億円の特別利益を計上し自己資本比率は一時的に改善したが、Stargateに絡む追加レバレッジ次第で再び悪化リスクがある。

 

【6 リスク評価】

・未上場AI銘柄の高バリュエーションが維持できなければVision Fund IIの評価損再拡大

Stargateの9割デット調達が計画通り進まない場合、SBG保証負担が増大

・Arm株価の変動がNAVに与えるインパクトが大きく、含み益頼みの財務構造から脱却できていない

・米政権の対中・対AI規制が投資先出口戦略を左右する

 

【7 今後の注目ポイント】

1 5月13日予定のFY2024決算発表:AI投資加速によるキャッシュアウトと追加資金調達計画の開示有無

2 Vision Fund 2のIPOパイプライン(OYO、ByteDance関連、Flipkartなど)

3 生成AIファンド新設の正式発表とLP構成

4 Arm持分の部分売却または追加上場による資金回収シナリオ

 

【まとめ】

SBGの投資事業は「Vision Fundのリセット」と「生成AIインフラ主導」の二層構造に移行しつつある。評価損益の振れ幅は依然大きいが、Arm含み益とAI戦略資産を梃子に次の成長ストーリーを描けるかが焦点だ。IPO環境と資本市場の金利動向が改善すれば反転余地はあるものの、巨額プロジェクトの資金繰り・リスクシェアリングの巧拙が投資家リターンを左右する局面に入った。

コメント

タイトルとURLをコピーしました