【背景】
2023年にタレント中居正広氏を巡る性暴力疑惑が週刊誌で報道され、フジ・メディア・ホールディングス(FMH)と子会社フジテレビジョン(CX)は2025年1月23日に外部弁護士のみで構成する第三者委員会を設置。3月31日に報告書(公表版・要約版)を受領し公表しました。4月30日には誤記訂正も発表されています。
【調査方法と範囲】
・調査対象期間は2019年以降の関連事案
・延べ174名へのヒアリングと大量の社内資料を精査
・被害者保護を最優先とし、実名版と匿名加工版を作成し実名版は社長のみ閲覧可とした
【主な認定事項】
・2023年6月の会食で女性に対し性暴力が行われたと認定。CX社員が取引先タレントのために見舞金を運搬するなど不適切な便宜を図った。
・CX社内では類似のハラスメント事案が複数存在し、被害申告後も組織的救済が機能しなかった。
・旧ジャニーズ性加害、テラスハウス問題など過去の重大人権事案でも「自己検証」にとどまり、学習がなされなかった。
【危機管理・対応の問題点】
・初動調査の遅れと事実関係の過小評価
・2024年12月のHPリリースと1月のクローズド会見は説明責任を果たせず世論の不信を増幅
・報道対策チームが社内広報主体で構成され、外部専門家を十分に活用しなかった
【ガバナンス上の根本課題】
・取締役会の指名ガバナンスが機能せず、同質性の強い「オールドボーイズクラブ」体質
・監査等委員会・コンプライアンス推進室の権限が弱く、人権リスクを経営課題として把握できていなかった
【第三者委員会の提言と会社の対策】
委員会は、取締役会の再構築、人権委員会創設、内部通報制度強化、外部専門家常設、女性登用拡大などを勧告。
これを受けFMHは3月31日付でガバナンス・人権対応強化策を公表。主要ポイントは以下の通り。
・取締役11名中6名を社外、女性比率36%へ引き上げ(CXは10名中6名、女性30%)
・社外主導の経営諮問委員会と改組した管理改革サブコミッティで指名・報酬を透明化
・グループ人権委員会を新設し外部人権専門家を副委員長に任命
・法務・コンプライアンス部門を統合し匿名通報窓口を拡充
・全役員対象の人権・コンプライアンス研修を義務化
【投資家への示唆】
1 人的資本とブランド毀損リスク
映像コンテンツ企業にとって人権・ハラスメント問題は直接的な制作停止・スポンサー離脱を招く。リスク管理体制が整うかが株価回復の前提条件。
2 ガバナンス改善と資本効率
社外比率・多様性が大幅に高まれば指名・報酬の透明性が向上し資本政策(政策保有株圧縮、自社株買い)の議論が進みやすい。アクティビストが重視するPBR改善にも直結。
3 メディア企業全体への波及
第三者委員会は「取引先を含むハラスメント温床」を構造問題と指摘。電波産業は系列・取引慣行が同質的なため、他局も自律的検証を迫られる公算が大きい。日本協会(JACD)は報告書を受け「グループ横断の構造改革が急務」と声明を出している。
まとめ
報告書は、単なる個別不祥事ではなく旧来型テレビ局の組織文化そのものにメスを入れました。FMHが示した統治改革プランは紙面上は先進的ですが、実効性は「社外主導」「女性・外部専門家登用」「開示の継続性」にかかっています。投資家は6月株主総会後の新体制発足と、2025年度中に予定される中期経営計画の改訂版に注目すべきでしょう。
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