■ はじめに
ドナルド・トランプ氏が2025年1月に再び大統領に就任してから100日あまり。就任直後に署名された「言論の自由回復・連邦検閲廃止」大統領令(以下、自由EO)は、ビッグテック、とりわけSNS最大手のMeta Platforms(以下、Meta)に直接的な影響を与えています。この記事では、Metaがトランプ政策に対して示してきた主な態度と、収益・株価・規制リスクにどのようなインパクトが表れているかを整理します。
■ トランプ政権(2025〜)のテック政策の要点
― 自由EO:連邦政府による「検閲的介入」を禁止し、プラットフォームのファクトチェック介入を問題視。
― Section 230(プラットフォーム免責)への再検討を示唆。議会では保守系議員が改正・撤廃を繰り返し提案。
― 子ども向けオンライン安全法(KOSA)は「保守的言論が抑圧される」として共和党主導で棚上げ。GoogleやMetaは水面下で法案成立を阻止したと報じられる。
■ Metaの公式スタンスと対応
トランプ個人アカウントへの対応
2023年1月、MetaはFacebook/Instagramのトランプ氏アカウントを2年ぶりに復活させ、違反時には最長2年の再停止も可能とする「ガードレール」を明示しました。2024年7月には「大統領候補は一般ユーザーと同等に発信機会を得るべき」として、ガードレールをさらに緩和しています。
自由EO直後のモデレーション緩和
2025年1月、Metaは「More Speech and Fewer Mistakes」と題する方針転換を発表。
― 外部ファクトチェックプログラムを廃止し、X型のCommunity Notesに移行
― 違法・高リスク投稿に集中し、政治的言論をより寛容に扱う
― ユーザーが政治コンテンツの表示量を細かく調整できるUIを導入
このタイミングは自由EOとほぼ同時期であり、「政権との衝突回避」が狙いとみられます。
ロビー活動の強化
2024年のMetaの連邦ロビー支出は2億4,430万ドルで過去最高。主軸は
・Section 230維持
・包括的プライバシー法およびKOSA阻止
・AI規制の緩和
などで、保守・リベラル両陣営へ働きかけを拡大しています。
社内外の反発
モデレーション緩和はMeta独立監督委員会(Oversight Board)から「人権影響評価が欠如」と厳しく批判されました。
■ 規制・事業面への影響分析
― 短期:違法投稿対策コストの削減と広告在庫の拡大で営業利益率は押し上げ要因。一方、誤情報リスクが高まりブランド広告主が一時的に出稿を見送るケースも報告されています。
― 中期:Section 230の改正・撤廃が実現すると、訴訟リスクとモデレーションコストが急増する可能性。現在のロビー攻勢はこれを未然に防ぐ防衛策です。
― 長期:ユーザー基盤の政治分極が進むと、プラットフォーム全体のエンゲージメントに影響が及ぶ(エコーチェンバー化リスク)。
■ 株価動向と市場の織り込み
2025年4月30日時点でMETA株は554.44ドル、PERは26倍とS&P 500ハイテク平均をやや上回る水準。自由EO発表後の1月下旬から2月中旬にかけて、
― 「モデレーションコスト減で利益上振れ期待」から約12%上昇
― ただし3月末、Oversight Boardの批判報道で一時6%調整
4月以降は広告需要の持ち直しを背景に再び上値を試す展開です。
■ 投資家向けチェックリスト(2025年下期〜)
・ Section 230関連法案の行方とロビー活動の効果
・ MetaのAI活用広告製品の収益寄与度(高マージン領域)
・ 政治広告制限期間(選挙終盤1週間)における広告売上のボラティリティ
・ 監督委員会の勧告を受けたモデレーション体制の再強化有無
・ EU DMA/DSA対応コストとの複合影響(米国規制との相乗リスク)
■ まとめ
Metaは「表現の自由」を旗印とするトランプ政策に対し、モデレーション緩和と積極的ロビー活動で“融和”を図る一方、独立監督委員会からの批判やブランド広告主の警戒感など逆風も抱えています。自由EOによる直接の法的拘束は限定的ですが、Section 230改正が現実味を帯びれば、同社のビジネスモデル自体が揺らぐ可能性があります。投資家は短期の利益率改善よりも、中長期的な規制構造の変化を注視する必要があるでしょう。
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