【リード】
第47代トランプ政権が1月に始動してから100日あまり。最大145%に達する対中関税や「アメリカ第一」色の濃い規制が相次ぐ一方、法人減税の深掘りや製造業回帰インセンティブも示され、米ハイテク各社は対応に追われている。なかでも世界時価総額トップ常連のAppleは、①理念的価値観の発信(移民・環境)と、②ビジネス上の実利確保(関税・税制)の両立で独自のポジションを築いてきた。本稿では4つの政策軸でAppleの態度と業績インパクトを整理し、投資家目線で次のチェックポイントを提示する。
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1 トランプ大統領との距離感:表向きの友好と水面下の駆け引き
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● 1月7日、ティム・クックCEOはトランプ就任式に個人で100万ドルを拠出。WSJによると、クックは初政権期から直談判と夕食会を重ね「大統領が直接相談したい経営者」として特別な関係を構築してきた。
● 4月中旬にもクックは商務長官ハワード・ラトニック氏に電話し、145%関税の影響を訴えた結果、スマートフォンなど電子機器が一時的に関税適用外となる“特例”を勝ち取った。
→ 建前では政治的発言を最小限に抑えつつ、実務レベルでは綿密なロビー活動で譲歩を引き出す――これがAppleの基本姿勢だ。
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2 通商政策:145%対中関税とサプライチェーン再編
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● 関税リスクは株価を直撃し、2025年のApple時価総額は年初来で約6,000億ドル蒸発(▲16%)。
● ただし特例発表直後には7%戻すなどボラティリティが高い。
● Appleは「2026年までに米国向けiPhone組立を100%インドへ移管」という計画を内々に提示。現時点でインド比率は20%に達し、中国依存脱却を急ぐ。
● 4月1日開始のセクション232調査(半導体・医薬)で再度25%課税が浮上。スマホの特例も「一時措置」にすぎず、関税コストをどこまで消費者価格に転嫁できるかが次決算(5/1)の争点となる。
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● 2017年、Appleは97社連名でイスラム圏渡航禁止令に対するアミカス・ブリーフを提出し、「移民なくして米国の競争力はない」と訴えた。
● Tim Cook自身もメディア取材で「我々は移民の国だ」と繰り返し強調。
→ 第2次トランプ政権でDACA廃止が再浮上する中、Appleは社内メッセージでドリーマー社員の雇用継続を約束しており、理念面では対立姿勢を維持している。
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4 環境政策:パリ協定離脱への異議と自社カーボンニュートラル
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● 2017年、クックはホワイトハウスへ直接電話し「離脱は米国経済の損失」と説得を試みたが実らず。その後TVインタビューで「大統領は間違った判断をした」と公言。
● 現在Appleは2030年カーボンニュートラル達成を掲げ、100社超のサプライヤーに再エネ調達を義務化。環境イメージを重視する投資家との関係強化にもつながっている。
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● トランプ政権が導入した一時的15.5%レパトリエーション税率により、Appleは約2,500億ドルを米国へ還流し38億ドルを納税。これを原資に巨額の自社株買いとデータセンター投資を実施した。
● トランプ氏は当時「米国への巨大な勝利」とSNSで自賛し、Appleも「ある程度は減税効果」と認めた。税制に関しては両者の利害が一致している。
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6 投資家への示唆:3つのチェックポイント
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■ 5月1日決算:関税コストの吸収率とインド生産移管の進捗を数値で開示できるか
■ 2025年秋のiPhone 17価格:関税再発動が上乗せされる場合、平均販売単価(ASP)がどこまで跳ね上がるか
■ 社会的リスク:DACAや環境規制で政権と再び対立する際、特例措置が撤回される可能性
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【まとめ】
Appleは移民・気候といった価値観領域では「反トランプ」を鮮明にしつつ、通商・税制では「対話と譲歩」で実利を最大化する“ダブルトラック”を磨いてきた。関税特例で一息ついたとはいえ、セクション232調査や関税再発動の変数は大きい。投資家としては、①インド移管の実行力、②関税コストの消費者転嫁余地、③理念的対立がサプライチェーン優遇を揺るがすリスク――この3点をウォッチすることで、Apple株の中期的なバリュエーション変動をより精緻に捉えられるはずだ。
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