【イントロダクション】
トランプ大統領(2017–20年)と再選後の“Trump 2.0”(2025年現在)は、移民制限、ネット中立性撤廃、大規模減税、関税強化など多岐にわたる施策で米テック業界を揺さぶってきた。リベラル色が強いNetflixは、政治的スタンスを公に示す数少ないエンタメ大手だ。本稿では、①Netflixが示してきた態度、②政策別のメリットとリスク、③財務面の実利、④今後の注目点を整理し、投資家視点で考察する。
【1 Netflixの公式姿勢】
・移民問題への即時批判
2017年の「イスラム圏渡航禁止令」直後、共同創業者リード・ヘイスティングスは「Trumpの行動は非米的で社員を傷つける」とFacebookで声明を出し、シリコンバレーで最も強い非難として注目された。
・大統領選への反対表明
2016年のTechFestでも「トランプ政権は米国にとって最悪」と発言し、政治的距離感を明確化。
・民主党寄り寄付によるボイコット圧力
2024年夏、ヘイスティングスがハリス陣営へ多額献金すると、保守層の#CancelNetflix運動が発生し、米国内解約率が一時3倍へ急伸。
【2 政策テーマ別のスタンスと影響】
2-1 移民・ビザ
多国籍クリエイターやIT人材を抱える同社にとり、ビザ制限は採用リスク。声明と企業連名訴訟で反対を継続しているが、実務面ではリモート制作で吸収。
2-2 ネット中立性(Net Neutrality)
2017年のFCC規制撤廃へ「革新と市民参加の時代を壊す」と公式に抗議し、訴訟支援も表明。ただし市場シェア拡大でISPとの価格交渉力が上がり、競合より影響は軽微と見る向きが多い。
2-3 2017年法人税減税(TCJA)
税率35→21%引き下げにより、Netflixの実効税率は2018–21年平均0.8%に低下。累計22億ドルの納税回避効果が確認され、フリーキャッシュフロー改善に直結。
2-4 関税・通商
ストリーミングは“無形財”ゆえ物品関税の直撃を受けず、2025年も主要テック株が軟調な中で株価は年初来9%上昇。 一方、中国が米映画枠を縮小するなど報復的文化規制を示唆し、配信権取得コストが上がる懸念も浮上。
2-5 通信品位法230条(Section 230)廃止論
プラットフォーム型SNSと異なり、Netflixは自社編集コンテンツ中心のため直接影響は限定的。ただし業界全体で表現責任が厳格化すると制作リスクに波及し得る。
2-6 “Trump 2.0”と文化戦争
再選後の政策詳細は見えないが、保守層強化に伴う自主規制圧力、LGBTQ+作品への逆風、対外報復関税など複合リスクが指摘される。
【3 財務インパクトの整理】
・税制メリットがEPSを底上げ
TCJA効果だけで2021年までに1株当たり利益を推計0.9 ドル押し上げたとされる。
・解約スパイクは短期で沈静
#CancelNetflix騒動時の churn 率2.8%は翌月1.2%台へ回帰。多様なオリジナル作品と広告付き低価格プランが防波堤になった。
・関税非対象の独自強み
物理サプライチェーン不要のため、トランプ関税が継続してもP/L影響は間接的(景気と為替)。AP通信は「テック中唯一の“安全域”」と評した。
【4 今後の注目ポイント】
2026年導入が検討される「デジタルサービス関税」が配信プラットフォームへ波及するか
共和党支配下での新FCC人事が帯域課金モデルを加速させる場合、コンテンツ投下コストより通信コストが支配的変数となる可能性
ハリウッド全体のストライキ・制作遅延が続くと、外国語コンテンツ依存度が高まり、各国規制との交渉力が焦点へ
【まとめ】
Netflixはリベラルな企業文化を前面に出しつつも、トランプ減税の恩恵や関税回避で財務的優位を享受してきた。移民・通信政策では批判的だが、実務面ではリモート制作、広告型プランなど柔軟な経営判断で吸収している。一方、再選後の保守的文化政策や対外関税強化は「政治的ボラティリティ」が長期収益の新たなディスカウント要因になる恐れがある。投資家は税制変化と規制リスクの両面から、次の一手を注視したい。
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