#636 トヨタがEV戦略を加速:北米巨大投資と次世代電池で狙う“後出し勝利”

トヨタは2月、米ノースカロライナ州リバティに建設していた電池専用工場「Toyota Battery Manufacturing North Carolina(TBMNC)」を本格稼働させ、4月から北米各工場へ電池出荷を開始しました。14本の生産ラインを備え、ハイブリッド・PHEV用4ラインとBEV用10ラインを同一サイトで運用するのが特徴です。

 

同施設への累計投資額は2023年10月発表の追加8 billion ドルを含め約139億ドル。雇用規模は5,000人超へ拡大し、トヨタ史上最大規模の単一電池拠点となります。

 

北米モデルも急ピッチで改良が進みます。主力SUV bZ4Xは26年モデルから車名を「bZ」に簡素化し、電池容量・航続距離を拡大。NACSポート採用でテスラのスーパーチャージャー網が使用可能になります。

 

並行して、出光興産と共同開発中の全固体電池は27〜28年の量産計画を明示。硫化物系固体電解質でエネルギー密度を現行比40%以上高め、10分以下の急速充電と1,000 km級の航続を狙います。

 

■テスラとの差は縮まるか?

2025年1〜3月期のBEV販売はトヨタ3.5万台、テスラ33.7万台。依然10倍近い開きがありますが、トヨタのBEV販売は前年同期比15%増、bZ4X(現bZ)の米国販売は195%増と急伸しています。

 

もっとも、市場シェア逆転には「量」と同時に「収益性」を高める必要があります。TBMNCは1サイト多車種生産で稼働率を維持し、電池コストを削減。さらにNACS対応で充電インフラ投資を抑え、差別化より“適者生存”を選んだ格好です。

 

トヨタが描く“後出し勝利”シナリオ

 

ハイブリッドで稼いだキャッシュを北米電池投資へ集中
26年までに“bZファミリー”10車種投入でラインナップ空白を解消
27年以降に全固体電池を段階的に搭載し、航続・充電速度で逆転

 

 

テスラのソフトウェア優位は依然大きいものの、トヨタは「まず製造品質と供給安定、次に電池技術」と優先順位を定め、リスク許容度の高い後追い戦略でギャップを埋めにいきます。

 

■投資家が見るべきポイント

● 米インフレ抑制法(IRA)税控除の適格化:北米産電池比率の進捗

● 全固体電池の量産コスト:1 kWh当たり100ドルを下回るか

● 26〜27年のBEV販売計画1.5百万台に対する設備稼働率

 

■リスク要因

● 固体電池の量産歩留まりと安全規制動向

● 銅・リチウムなど素材価格の再上昇

● 米中関係再悪化によるサプライチェーン分断

 

EVシフトの“主戦場”が北米電池サプライチェーンになった今、トヨタは「マルチパスウェイ」で守りを固めつつ、全固体という“切り札”で勝負に出ます。テスラに対し「後発効率」で迫る日本勢の本気度が試されるのは、27年以降の電池量産ラインが安定稼働してから。IR資料や米政府補助金申請の進行をウォッチしておく価値は十分にあります。

 

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