Gartnerは5月12日、国内1000人以上の企業を対象に行った調査結果を公表し、「体系的なアプリケーション戦略を持たない企業が依然として多数派であり、IT部門の位置付け・姿勢の違いがビジネス成果に直結している」と警鐘を鳴らしました。IT投資が本業成長に結び付いている企業では、経営層からの理解と信頼を土台に、戦略と意思決定を連動させる文化が定着していた点が特徴的です。
Gartnerは、日本企業が取り組むべき具体策として次の「4ステップ」を提示しています。
【ステップ1 戦略原則を定める】
アプリケーションの役割と価値を示す原則を設定し、「アジリティを優先するのか、厳格なガバナンスとコスト最適化を優先するのか」を明文化します。関係者が迷わず判断できる“北極星”を示すことで、後の意思決定スピードが大きく変わります。
【ステップ2 アプリケーションの健康診断】
全ポートフォリオをTIMEフレームワーク(Tolerate/Invest/Eliminate/Migrate)で棚卸しし、ビジネス価値・技術負債・保守コストを多角的に評価。ユーザー部門を巻き込んで優先順位を合意形成することが、改革のスピードと定着を左右します。
【ステップ3 ビジネス・ケイパビリティの仕分け】
アプリ機能を「ペース・レイヤ」3層(システム・オブ・レコード/ディファレンシエーション/イノベーション)に分類し、独自性の高いケイパビリティには大胆に投資、差別化不要な機能は標準化・SaaS活用でコストを圧縮します。今後の成長領域を見極めた“未来志向の仕分け”が鍵です。
【ステップ4 1ページで伝わる戦略に落とし込む】
経営陣を含む全ステークホルダーがひと目で理解できるよう、コンセプト・ロードマップ・KPIを1枚絵で可視化。完璧を狙わず「進化前提」で公開し、定期的にアップデートすることで組織の学習を加速させます。
―――企業はどう動くべきか?
1 経営×ITの統合ガバナンスを強化
CFO・事業責任者をプロジェクトボードに常時参加させ、投資判断と成果指標を共有する。
2 「アプリをプロダクトとして捉える」文化醸成
スクラムや内製化チームを活用し、リリース後もライフサイクル全体でオーナーシップを持つ。
3 クラウド&ローコードの標準採用
差別化不要領域をSaaS/PaaSへ移行し、属人化したレガシーの維持コストを段階的に削減する。
4 生成AI・APIエコシステムへの対応
AI組込型SaaSの急増に備え、API管理とセキュリティガードレールをアーキテクチャに組み込む。
5 実効KPIで効果を可視化
例:新機能リードタイム、ユーザー満足度、運用コスト削減額――定量指標でROIを継続測定し、戦略の進化サイクルを加速させる。
「戦略原則→健全性評価→ケイパビリティ仕分け→1ページ戦略」という流れは、アプリケーションを“ビジネス成果に直結させる仕組み”へ昇華する設計図です。日本企業がDXの本丸で遅れを取らないためには、まず経営とITが一枚岩となり、この4ステップを今期のアクションプランに組み込むことが急務と言えるでしょう。
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