【1】交代劇はなぜ三度起きたのか
2021年に元日産の関潤氏へ社長職を譲った永守重信氏は、業績下振れを理由にわずか10か月でCEOへ電撃復帰(2022年4月)し、関氏をCOOに戻した。 今度は2024年4月、車載モータ部門トップの岸田光也氏を社長兼CEOに据え、自身は「創業者・エグゼクティブチェアマン」として代表権を維持する “再々登板” の体制に移行すると発表した。
【2】永守イズム――スピードとM&Aのドライブ力
永守氏は「速決・速断」と買収を武器に売上高10兆円(2030年度目標)を掲げる。M&A経験と現場への強いコミットメントは高成長を下支えしてきた半面、トップの判断が全社に直結する構造が温存され、後継CEOが十分に権限を振るえないとの声も根強い。
【3】ガバナンスの揺らぎと内部統制の傷
2024年5月には連結決算処理をめぐる誤計上が判明し、2023年3月期内部統制報告書に「重大な虚弱性(material weakness)」を記載せざるを得なかった。 代表権を持つ創業者が実務も采配すると、指揮命令系統が創業者個人へ集中しやすく、監督機能が働きにくいという典型例を示した形だ。
【4】海外投資家の視点――株価に映るガバナンス・ディスカウント
EV用eアクスル事業の赤字拡大と中国市場の価格競争に加え、度重なるトップ人事が「不確実性プレミアム」を招き、株価は2022年初から約60%下落。2023年10月には一日で10.5%急落し、15年ぶりの下げ幅を記録した。 海外機関投資家が重視する指名委員会主導の継承計画や独立社外取締役の実効性が問われている。
【5】世代交代の壁――日本の創業者企業が抱える共通課題
ファーストリテイリング、ソフトバンクGなどでも見られる「創業者が離れ切れない」現象は、①ブランドやカルチャーの一体性を守れる利点と、②迅速な意思決定が逆にリスク集中を招く欠点を同時に孕む。ニデックは指名委で候補を複層的に育成する方針を掲げるが、創業者が代表権を持ち続ける限り、真の権限委譲は外から見えにくい。
【6】今後の注目点
・岸田新社長が2025年度までにeアクスル事業を黒字転換できるか
・指名・報酬委員会における社外取締役比率と権限移譲の進度
・内部統制の再構築と再発防止策の進捗状況
・創業者が代表権を返上する明確なマイルストーンを設定できるか
ニデックの事例は、日本企業における「創業者支配とガバナンス改革」のバランスを象徴する。投資家は数値目標だけでなく、継続可能な統治体制が構築されるかどうかを厳しく見極めていくだろう。
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