#661 物価高・人手不足時代に輝く“物流株”――安定収益モデルとして再注目

【はじめに】

エネルギー価格の高止まりや食品・日用品の相次ぐ値上げ、さらにトラック運転手の労働時間が2024年4月から厳格規制された「2024年問題」により、物流コストは構造的に上昇しています。ところが物流大手は、ネット通販需要の底堅さと運賃の適正化を追い風に値上げを浸透させ、むしろ収益基盤を強化しました。インフラ性の高い事業モデルは景気後退局面でも需要が大きく落ちにくく、ディフェンシブ銘柄として機関投資家の資金が回帰しています。

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【注目背景 1:運賃の“転嫁力”とインフレ耐性】

・SGホールディングスは宅配便単価の是正(平均運賃アップ)を進め、第2四半期まで増収増益を確保。取扱個数はやや弱含みでも売上は伸ばせる価格決定力を示しました。

・日本郵便は2024年10月の郵便料金改定とゆうパック数量の拡大で、郵便・物流事業の営業利益が前年から300億円規模で改善する計画。料金改定のフル寄与は2025年度で、利益伸長余地が残ります。

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【注目背景 2:深刻化する労働力不足】

2024年4月からドライバーの時間外労働が年間960時間(月45時間原則)に制限され、輸送キャパシティは理論上14%減少すると試算されています。輸送網を維持するには運賃是正と自動化投資が不可欠で、価格改定は社会的に受け入れられやすい環境が整いました。

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【注目背景 3:ESG評価と“Green物流”】

EVトラックの導入やモーダルシフトを進める企業は、機関投資家が重視するScope 3削減ニーズを顧客企業に提供できる点で差別化が進みます。国交省も物流GXを重点政策に掲げ、補助金や税制優遇が追い風です。

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【主要3社の戦略比較】

◆SGホールディングス(佐川急便)

・AI仕分けロボを導入した大型メガソーターを全国展開し、夜間自動仕分けで人手を4割削減。

・低温物流を強化すべくC&Fロジとの統合を完了し、食品ECの伸びを取り込む体制を整備。

・株主還元も機動的。自己株取得枠600億円を設定し総還元性向60%超を掲げる。

◆日本郵政グループ(日本郵便)

・郵便物減少をカバーするため荷物(ゆうパック・ゆうパケット)にリソースを再配分。物流ネットワーク再編と料金改定で黒字化を目指す。

・23区内で置き配ロッカーを拡大し再配達削減を推進。

・Toll売却で海外物流リスクを縮小し、国内小口貨物に経営資源を集中。

◆セイノーホールディングス

・「ロードマップ2028」で“Team Green Logistics”を掲げ、異業種連携型オープン・パブリック・プラットフォーム(O.P.P.)を推進。

・西濃運輸を中心に共同配送と水素燃料電池トラックの実証を開始し、CO₂削減と積載率向上を両立。

・事業会社再編と費用管理で過去最高売上高を更新しつつROE向上を狙う。

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【ラストワンマイル&倉庫DX:資本集約フェーズへ】

Amazonは2024年に国内ラストワンマイル網へ250億円超を追加投資すると発表。大手ECによるインフラ投資は中小物流企業の合従連衡を促し、不動産投資法人(物流REIT)の稼働率底上げにもつながっています。各社は自社配送網だけでなく、EC荷主からの共同運行受託で収益源を多角化しています。

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【投資視点】

・SGHDとセイノーはいずれも営業キャッシュフローが安定し、配当利回りは2.3~3%水準。

・日本郵政はゆうちょ持ち株比率引き下げに伴う自己株取得余地と、配当利回り4%台が下支え。

・一般的に物流株の株価はTOPIX対比のβが0.6~0.8と低く、相場急落局面でのディフェンシブ性が確認できるため、資産ポートフォリオのボラティリティ低減に寄与しやすい。

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【想定リスク】

・燃料費高騰が継続した場合、燃料サーチャージでカバーしきれない期間差リスクが残る。

・ドライバー人件費の上昇が自動化投資の前倒しを迫り、短期的な減価償却負担を高める可能性。

・規制強化(CO₂排出規制や労働時間追加規制)が設備投資負担を押し上げる。

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【まとめ】

インフレ下で価格転嫁が進みやすい上、高水準の配当や自己株取得で株主還元を強化する物流株は、安定性と成長余地を兼ね備えた“インフレ耐性セクター”として再評価余地が大きいと考えられます。短期的な燃料・人件費上昇リスクはあるものの、DX・GX投資による効率化が中期的な競争優位をもたらす構図に変化はありません。

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#物流株 #人手不足 #ディフェンシブ銘柄 #インフレ耐性

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