#655 円高トレンド再燃:日銀利上げ観測と米ドル減速が示す今後の為替シナリオ

◆ 背景サマリー

5月中旬の外国為替市場では米ドル/円が145円台半ばまで下落し、円は対ドルで週初来の高値圏を維持しています。主因は①日銀の追加利上げ観測、②米FRBが利下げ待機姿勢に転じたことで金利差が縮小したこと、③貿易黒字の回復による円買い需要の増加、そして④リスク回避局面での安全資産需要です。

 

◆ 日銀のスタンス:利上げ余地を残す

4月30日―5月1日の金融政策決定会合「主な意見」によれば、政策委員の複数名が「物価・賃金次第で政策金利を機動的に引き上げる必要がある」と明言しました。市場は年内0.75%への追加利上げを5割超織り込みつつあり、金利差縮小が円買いの支えとなっています。

 

◆ 経済指標が示す円高の下地

・ 卸売物価(CGPI)は4月に前年比+4.0%と高止まりした一方、円高による輸入物価指数は▲7.2%と低下。円高は輸入コストを押し下げる「デフレ耐性」を発揮し、過度な物価上昇を抑制しています。

・ 3月貿易統計では輸出が前年比+3.9%、貿易収支は5,441億円の黒字。企業の期末決算に伴うレパトリ資金も円買い要因になりました。

 

◆ 米国要因:ドル失速と金利見通し

FRBは5月7日に政策金利(上限5.50%)を据え置き、インフレと失業の両リスクを注視する「慎重モード」を強調。市場は年内2回程度の利下げを見込み、長期金利は4.3%台へ低下しました。ドルの上値余地が限られた結果、円高圧力が強まりやすい地合いです。

 

◆ 3つのシナリオ展望(6か月)

 

ベースライン:USD/JPY 140円前後
 – 日銀は9月~10月に0.25%幅の追加利上げ、FRBは9月に初回利下げ。金利差がさらに縮小し、140円近辺で推移。
円高加速:135円ブレイク
 – 日本の実質賃金改善と秋口のボーナス商戦が消費を刺激、インフレの粘着性が確認されれば日銀が年内2回の利上げ。米国が景気減速で早期利下げに踏み切れば金利差逆転懸念から円がさらに買われる。
反転リスク:150円台回帰
 – 米インフレ再燃や追加関税の物価転嫁でFRBが利下げを先送り、長期金利が再上昇。日銀は外需落ち込みを警戒して利上げを見送り、金利差拡大で円が売られる。

 

 

◆ 投資・ビジネス戦略

― 輸入型ビジネス(食品・エネルギー)は円高局面で原価が低減。利益改善メリットを享受しやすい。

― 輸出企業は為替ヘッジコスト増に備え、デリバティブの長期契約を検討。想定レート引き上げと同時に海外生産比率を見直す余地。

― 資産運用面では「国際分散+円建て債券」の比率を高め、為替リスクの中立化を図る一方、円高で割安になる外貨建て資産への段階的投資も検討。

 

◆ 注目イベント・データチェックリスト

― 6月13日:5月全国CPI(コア)

― 6月20日:日銀会合(政策据え置き見通しだが声明文の利上げ示唆に警戒)

― 7月2日:日銀短観(大企業製造業DI)

― 7月31日:FOMC

― 8月上旬:4~6月期実質GDP速報

 

◆ まとめ

円高は「金利差」と「経常収支」の力学が同時に働くときに加速します。足元では両ファクターが円高方向に揃い始めた一方、米インフレ再加速や新たな通商リスクがドルを支える可能性も残っています。140円割れが視野に入る場面では、輸出企業の業績下振れリスクと輸入企業の改善インパクトを同時にチェックし、ポートフォリオを機動的に調整する局面といえるでしょう。

 

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