#665 ダルトン・インベストメンツが仕掛ける“PBR改革”最前線 ――株主提案の結果と2025~26年シナリオ――

【概要】

米系アクティビスト、ダルトン・インベストメンツ(以下ダルトン)は、東京証券取引所が2023年に打ち出した「資本コストや株価を意識した経営」要請を追い風に、日本企業へのエンゲージメントを加速させている。2024年末から2025年前半にかけては株主提案と大口保有の開示が相次ぎ、低PBR・現金豊富な消費財や製造業を中心に「株主還元の強化」と「非効率資産の売却」を迫る動きが目立った。

【最近の主な動き】

・富士メディアHDに5%超の共同保有を開示(Nippon Active Value Fundとの連携)し、ガバナンス改革を示唆(2024年12月) 

・トヨタ産業(豊田自動織機)に対し、持ち合い解消を目的としたデンソー株の全面売却を要請。会社側は2024年10月に売却を発表し、資本効率改善へ踏み出した 

・2025年3月総会シーズンでは江崎グリコ、ノーリツ、三菱鉛筆、帝国繊維など5社へ株主提案(自己株取得・取締役会構成見直し等)を提出。賛成率は7〜22%台と可決には届かなかったが、会社側が自社株買いや開示拡充を表明するなど一定の牽制効果を発揮 

【ケーススタディ】

① トヨタ産業

 ・デンソー株(約4,900億円相当)の売却決定でROE押し上げ効果。

 ・2025年5月には親会社トヨタ自動車が買収検討を認める報道が出ており、持ち合い解消圧力がグループ再編に波及する可能性 

② 江崎グリコ

 ・ダルトン提案の自己株取得案には21.6%の賛成票。可決ライン(50%)には遠いが、機関投資家票が2割超集まったことで資本政策議論が継続テーマに 

③ 富士メディアHD

 ・PBR0.6倍前後が続く中、クロスシェアの解消と遊休不動産売却を要求。会社側は2025年度中に1000億円規模の資産売却方針を開示し、株価は年初来で18%上昇。

【ダルトンの投資哲学】

・「Time Arbitrage」と呼ぶ長期視点(3~5年)での企業価値アンロックを狙う。

・ターゲットは①PBR1倍割れ、②ネットキャッシュ、③ブランド力または技術優位を持つ中型株が中心。

・提案メニューは自己株買い・増配に加え、持ち合い株の解消と役員報酬の業績連動化。ポッドキャストでも「日本企業は“現金過多+人件費インセンティブ不足”が共通課題」と指摘 

【市場環境】

日本のアクティビスト案件は2024年に150件近くと過去最高を更新。TSE改革とグローバル運用勢の支持が追い風となる一方、取引先持ち合いや地域金融機関の友好株主網が壁となり、可決率は依然として低水準にとどまる 

【今後の展望(2025~26年)】

・低PBR消費財・機械セクターに第2波:特に内部留保が株主資本の50%以上を占める企業が標的候補。

・議決権行使助言会社の推奨基準厳格化で、20%台だった賛成率が30%を超える可能性。

・トヨタグループ再編が前例となり、他の重厚長大型企業(例:コマツ系、住友系)にも持ち合い解消圧力が波及。

・ダルトンは運用残高の約25%を日本株アクティビズムに充当しており、ファンド資金流入が続けば提案数は年間10件規模まで拡大も。

【投資家への示唆】

・スクリーニングの鍵は「PBR<1×かつネットキャッシュ/時価総額30%以上」。

・総会日の前後で株主還元策発表→株価急伸する“イベント・ドリブン”が狙い目。

・賛成率20%超の企業リストをウォッチし、翌年度に経営側が譲歩するパターンに着目。

【まとめ】

トヨタ産業の例が示すように、ダルトンの提案は可決に至らずとも企業の資本政策を一段と“株主目線”へシフトさせる触媒となっている。2025年は制度改革と海外機関投資家の支持が重なり、賛同票の閾値が上がる局面。低PBRで“眠れる資産”を抱える企業ほど、ダルトンの提案を無視できなくなるだろう。

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