#590 東京エレクトロン:半導体市況の変化と設備投資計画

――2025年3月期決算を起点に読む中期シナリオ――

 

【イントロダクション】

生成AIの爆発的普及が先端ロジックと高帯域メモリ(HBM)への投資を引き戻し、半導体装置サイクルは底入れの兆しを見せている。装置専業最大手の一角・東京エレクトロン(TEL)は、ハイエンド成膜・エッチ分野で高シェアを握る“市況感度の高い優良株”。本稿では①世界半導体市況の最新トレンド、②TELの業績と設備投資、③投資家が注視すべきリスクと機会を整理する。

 

【1 世界半導体市況:回復フェーズへの移行】

・WSTS(世界半導体市場統計)は2025年の半導体売上高を前年比11.2%増の6,970億ドルと予測。ロジックとメモリだけで4,000億ドルを超える水準へ戻る見通しを示した。

・装置側ではSEMIが2024年の前工程装置ビリングスを1,171億ドルと発表し、2025年に1,210億ドル、2026年には1,390億ドルと過去最高を更新すると予測している。

・足元のメモリ市況はDDR5/HBM主導で反転。TrendForceはDDR4スポット価格が2025年3月時点で底打ちし、2Q25に0〜5%の上昇とレポート。

 

【2 東京エレクトロンの業績スナップショット】

・2025年3月期(FY2025)は顧客の先端・成熟ノード投資再開を背景に、売上高2兆4,315億円(前年+32.8%)、営業利益6,973億円(同+52.8%)と過去最高を更新。ROEは30.3%へ急伸した。

・地域別では中国比率が4Q25に34%まで低下する一方、韓国・台湾が伸長し、需要の地理的分散が進行。ロジック/ファウンドリ向けが依然62%を占めるが、HBMけん引でDRAM構成比が31%へ上昇。

 

【3 設備投資計画:FY2025からFY2026へ】

・FY2025の設備投資は1,621億円(前年+33%)。宮城・九州の新R&D棟建設と評価装置調達が主因で、同年のR&D費2,500億円と併せて先行投資を強化した。

・トヨケイオンラインによれば、FY2026(2026年3月期)の設備投資は前年比約43%増を計画し、EUV対応プロセス、GAA(ゲート・オール・アラウンド)量産向けプラットフォーム、HBM後工程向け成膜装置などに重点配分する方針という。

キャッシュフローは営業CF6,900億円、フリーCF5,300億円と潤沢であり、自己株取得と増配余地も確保。FY2025の総還元性向は120%に到達した。

 

【4 戦略的焦点】

①先端ロジック:GAA/CFET世代に対応する高選択エッチ装置とスペーサーデポ装置でTSMCSamsungの量産ロードマップに深くコミット。

②HBMメモリ:3D積層枚数が増すにつれプラズマクリーナやバンプ成膜装置の単価が上昇、サービス収益(Field Solutions)がFY25で5,383億円と前年+26%の伸びを維持。

地政学リスク回避:中国向けシェア縮小を補うため、台湾・韓国・米国ファブへの拠点拡張を計画。EUV後工程や先端パッケージ拠点をアリゾナシンガポールに分散。

 

【5 リスクとチェックポイント】

・米中輸出規制強化が続く場合、前倒し需要の反動減がFY2026前半に顕在化する恐れ。

・AI投資サイクルが想定を下回ればHBM関連装置の稼働率が低下。

・円レートは輸出・輸入双方に影響は限定的と説明するが、資材高騰は粗利47%維持に逆風。

 

【6 投資評価とまとめ】

半導体装置サイクルは2024年が底、2025年はメモリ主導で回復、2026年に前工程・後工程とも過去最高更新というSEMIシナリオがベース。TELはFY2026に向けて約40%の積極投資を掲げ、市場シェアを拡大させる好機にある。足許のPER(予想18~19倍)は過去5年平均(23倍)を下回り、装置サイクル上昇と利益成長を織り込む余地があるとみる。中国需要鈍化リスクを監視しつつ、①HBM拡大ペース、②GAA量産タイムライン、③設備投資の実行進捗を四半期ごとにフォローしたい。

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