#591 三井物産:資源高とグリーントランスフォーメーション(GX)戦略

【企業概要】

三井物産はエネルギー・金属資源から機械、化学、生活産業まで事業を多角展開する総合商社です。2024年度(2025年3月期)の純利益は資源価格の一服で前期比減益予想ながら7,700億円と依然高水準を計画しています 。同社は2050年ネットゼロ、2030年GHG半減を掲げ、資源ビジネスで得たキャッシュをGX領域へ再投資する「両利きの経営」を鮮明にしています 。

 

【資源高が収益を支える背景】

2024年以降、天然ガス価格は欧州の供給不安で上昇基調を維持し、三井物産LNG権益は高い配当原資となっています 。一方、原油や鉄鉱石など他コモディティは需要鈍化観測で上値を抑えられており、収益の振れ幅は拡大しています 。こうした資源価格の“山谷”を現金創出力へ転換し、非資源事業の伸びとGX投資でポートフォリオを平準化するのが同社の基本戦略です。

 

【GX戦略の全体像】

同社は2024年投資家説明会でGXを「天然ガスLNG」「次世代燃料」「脱炭素ソリューション」の三本柱で推進すると表明しました 。①既存資産の排出削減、②移行期を支えるガス事業の強化、③長期成長を担うグリーン燃料・再エネ投資——の時間軸を描き、2030年度までに累計2兆円規模のGX投資を計画しています。

 

【重点投資領域】

LNGトランジション燃料

 カタールモザンビークなど既存権益を堅持しつつ、CCUS付きガス田開発も検討。LNGを「排出原単位を抑えたつなぎ燃料」と位置づけ、アジア需要を取り込む考えです。

 

・次世代燃料(合成燃料・アンモニア・水素)

 2025年2月、米Infiniumへ出資しe‑Fuel商用化に踏み出しました 。さらにUAEで年100万トン規模の低炭素アンモニア工場を建設、27年稼働を目指します 。アジア輸送の燃料転換需要を先取りし、排出削減クレジット事業とも連動させる計画です。

 

再生可能エネルギー

 国内では太陽光・陸上風力363MW分の発電資産を買収し、再エネ開発・運営機能を強化しました 。海外では欧米の洋上風力やバイオマス案件へ参画し、発電ポートフォリオを拡大しています。

 

・カーボンマネジメント/CCUS

 排出量可視化・クレジット生成サービスを提供し、国内GXリーグにも参画 。油ガス権益地でのCO₂地下貯留やブルーアンモニア製造で、炭素循環型ビジネスの収益化を狙います。

 

【リスクと課題】

(1) コモディティ価格ボラティリティ:資源収益依存が続く限りキャッシュフローは市況変動の影響を受けやすい。特に原油・鉄鉱石価格の下振れは利益計画を揺るがしかねません。

(2) 政策変動:米国関税強化やカーボンプライシング制度の設計次第でコスト構造が変動するリスクがあります 。

(3) 技術成熟度:e‑Fuelや大規模CCUSは商用化段階に不確実性が残り、案件IRRの見極めが不可欠です。

(4) 資本効率:GX案件は初期投資負担が大きく回収長期化が想定されるため、従来の高ROE体質を維持できるかが問われます。

 

【投資家目線まとめ】

資源高による潤沢なキャッシュを原資にGXへアクセルを踏む姿勢は、脱炭素トレンド下でも稼ぐ力と成長投資の両立を図るモデルケースと言えます。足元では資源相場の踊り場と米国保護主義の逆風で24年度利益はやや慎重なガイダンスですが、(1) LNG長期需要、(2) 次世代燃料の制度整備、(3) 国内外再エネ拡大により中期的にはキャッシュ創出力が再加速するシナリオが描けます。資源市況に左右されにくいストック型ビジネスをどこまで積み上げられるかが、今後の株価バリュエーション改善の鍵になるでしょう。

 

【終わりに】

三井物産は“資源商社”から“GXプラットフォーマー”へ進化する過渡期にあります。資源高を追い風に得た財務余力をグリーン分野へ的確に振り向け、収益基盤と社会的価値の双方を拡大できるか。2025年はその実行力が本格的に試される年となりそうです。

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