1.はじめに
トヨタはこれまでハイブリッド車(HV)を軸に「マルチパスウェイ戦略」を掲げてきました。しかし欧米・中国でのZEV規制強化と競合の急伸を受け、2023年度以降は本格的なBEV(純電動車)シフトを宣言しています。本稿ではトヨタの最新EV戦略を整理し、技術・市場・経営面の課題を考察します。
2.EVシフトの現状
2–1 販売実績
2024年の世界販売は約1,100万台で首位を維持したものの、BEV比率は約1%(約14万台)にとどまります。EV依存度の低さは他社と比べ大きなギャップです。
2–2 新型ラインナップと生産計画
・bZシリーズを中心に5車種を展開してきましたが、2027年までに自社開発EVを15車種へ拡大し、年産100万台を目指すと報じられています。
・北米では2025年稼働予定のノースカロライナ電池工場(投資額140億ドル)を活用し現地生産比率を高め、米国IRA税控除に対応します。
・中国ではGACトヨタと共同で2万ドルのスマートEV「Bozhi 3X」を発売、1時間で1万件超の受注を獲得し価格競争に踏み込みました。
3.技術開発の焦点
3–1 次世代電池ロードマップ
・2027–28年に全固体電池を市販化し10分充電(10–80%)を目指す計画を再確認。Idemitsuとの固体電解質共同量産に向け、千葉製油所に硫化リチウム工場を建設します(2027年完成予定)。
・従来型リチウムイオンでも「パフォーマンス」「ハイパフォーマンス」など4系統を開発し、最長1,000 kmレンジとコスト40%削減を掲げています。
3–2 ソフトウェア・自動運転
中国向けモデルではHuawei HarmonyOSやMomentaのADASを採用し、2025年にレベル3相当機能を導入予定です。
グローバルではArene OSを軸にOTA更新を進め、車載SWの自社主導度を高めています。
4.EVシフトの主な課題
4–1 販売構成の偏重
2024年の「電動車」販売の93%がHVであり、収益源として依存が大きい一方、規制強化地域ではHVがZEV扱い外になるリスクがあります。
4–2 コストとサプライチェーン
BEVの原価は同クラスHV比で2~3割高いとされ、電池原材料の確保も不可欠です。LGエナジー、パナソニック、CATLに加え自社北米工場での供給網多角化が急務です。
4–3 競合との学習曲線ギャップ
テスラやBYDは年間200万台超のBEVを量産し、規模の経済と独自ソフトでコスト優位に立っています。トヨタは量産経験値が不足しており、品質保証(bZ4X初期リコールなど)の強化が信頼回復のカギです。
4–4 組織文化と人材
「マルチパスウェイ」の旗を降ろさずBEV優先文化へ転換するには、パワートレイン部門を跨いだ人材再配置と投資評価指標の見直しが必要です。Sato社長は社内協議で「Healthy Sense of Urgency(危機感の共有)」を繰り返し強調しています。
5.投資家視点のまとめ
・全固体電池が量産期に入る2027–28年まではHV・PHEVで収益を稼ぎつつ、北米・中国でBEV拡販を測る“ブリッジ戦略”。
・2025–26年度は北米電池工場立ち上げ費用が利益を圧迫する見通し。通期営業利益は2025年3月期に一時的減益を見込むものの、中期的には高付加価値BEV投入でマージン回復を狙う。
・EV販売目標(2026年度800万台→修正後約80万台)は現実路線への下方修正と捉えられるが、目標達成度が株価プレミアムに直結する点は要注意です。
6.おわりに
トヨタのEVシフトは「量より質」を掲げつつも、世界の規模競争が激化する中で時間との戦いになっています。資金力と技術ポートフォリオの厚みを生かし、市場別に最適解を示せるかが今後5年間の評価軸となるでしょう。
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