#685 “定額働かせ放題”見直し論:日本の人事制度は変われるか?

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【イントロダクション】

政府は5月28日に公表した規制改革推進会議の答申で、裁量労働制の対象業務見直しや副業・兼業の環境整備を優先課題に位置づけました。背景には、最高裁が3月7日に過重労働と自殺の因果関係を認定した判決など、長時間労働リスクを再び社会問題化させる動きがあります。企業と投資家にとっては、人件費管理だけでなく「人的資本経営」の観点から制度対応の透明性が問われる局面です。

■1 見直し対象となる制度と背景

・裁量労働制:2024年4月の省令改正で「業務範囲の明確化」「労働条件通知の追加」など運用ルールが強化。さらに2025年の規制改革答申では、スタートアップなど多様な働き方を前提に対象業務を再定義する方針が示されました。

・年俸制:“残業代込み”の年俸契約を巡る紛争が増加。労務専門サイトによれば、2025年も年俸制を理由に残業代を争う訴訟が続出し、企業側が支払いを命じられる事例が相次いでいます。

・訴訟リスク:最高裁2025年判決は「長時間勤務と精神疾患の業務起因性」を明確化し、安全配慮義務違反への賠償責任を再確認させました。裁量労働・年俸制の運用管理が不十分な企業は、今後より高額な損害賠償を迫られる可能性があります。

■2 制度を活用してきた企業のリアル

〈キーエンス〉

平均的な営業職の勤務は7時半出社・21時退社が目安とされ、高い成果給と引き換えに恒常長時間労働が定着しているとの就活レポートが話題に。若手の高離職率や採用コストが表面化し始めています。

〈電通〉

2016年の過労自殺事件後、労働環境改革を継続。2024年度通期の1人当たり総労働時間や法定外労働時間を四半期ごとに開示し、違反者数ゼロを目標にPDCAを回しています。それでも2024年度1人当たり総労働時間は年間1,800時間台と業界平均より高く、改善余地は残ります。

■3 投資家目線で見る“人件費リスク”と人的資本経営

・人的資本情報開示:2025年から有価証券報告書で人的資本KPIの記載が義務化。投資家は「時間外労働の推移」「健康関連指標」「従業員エンゲージメント」などを財務リスクと同列で評価し始めています。

・コスト算定のブレ:裁量労働や年俸制が見直されれば、固定費構造が変わり、損益分岐点が上昇。特に労働集約型サービス業は、中期収益モデルの前提が崩れる恐れがあります。

・好事例:電通グループは2025–27年度中計で「人的資本へのコミットメント」を明文化し、ROE向上と並列で労働環境改善を掲げています。ESGファンドの保有比率も上昇中です。

【まとめと提言】

企業は裁量労働・年俸制の運用ルールを再点検し、実労働時間の実態把握と健康管理データの統合を急ぐ。 投資家は人的資本開示の質をチェックし、人件費の“資産”化(スキル投資)と“コスト”化(長時間労働)のバランスを見る。 制度改正の行方は「働き方改革2.0」の試金石。株式市場では、人材戦略を開示できない企業がバリュエーションディスカウントを受ける可能性が高まる。

#働き方改革 #裁量労働制 #人件費管理 #人的資本経営 #制度見直し

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