【会社概要】
DoorDash
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・創業 2013年(トニー・シューほかが米スタンフォード大学で設立)
・本社 米国カリフォルニア州サンフランシスコ
・上場 NASDAQ: DASH(2020年12月)
・主要指標 2024年売上高107億ドル、GAAP純利益1億2300万ドル(通期ベースで初の黒字)、月間アクティブユーザー4200万超、DashPass/Wolt+会員2200万超
・地域展開 北米中心に30超の国・地域へ拡大(21年にWoltを買収して欧州北部に進出)
・最新動向 2025年4月、Deliverooに対して27億ポンド(1株180ペンス)の買収提案を実施
Deliveroo
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・創業 2013年(ウィル・シューとグレッグ・オルロフスキーがロンドンで設立)
・本社 英国ロンドン
・上場 LSE: ROO(2021年3月)
・主要指標 2024年売上高20億7200万ポンド、純利益290万ポンド(初の通期黒字)、月間アクティブ消費者710万人
・地域展開 英国・アイルランドを主軸に欧州主要国、中東、アジア計10市場
・最新動向 DoorDashの買収提案を取締役会が「前向きに検討」と公表。5月23日までに確約オファー提出が必要
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【業績と市場構造】
1 DoorDash:規模効果で黒字化
・売上は前年比24 %増の107億ドル、GAAP純利益は1億2300万ドルで創業以来はじめて通期黒字を達成。広告比率と国際展開が伸長し、フリーキャッシュフローも18億ドルと潤沢
・月間アクティブユーザーは42 百万、DashPass/Wolt+会員は22 百万とサブスクが成長ドライバー
2 Deliveroo:収益体質がようやく黒字ゾーンへ
・総取扱高(GTV)は74億ポンド、売上高は20億ポンド、純利益は290万ポンド。広告収益と配送効率改善で調整後EBITDAは1億2960万ポンドに拡大
・月間アクティブ消費者は710万人で横ばいながら、英国・UAE・イタリアでは成長復調の兆し
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【買収提案の概要と株式市場の反応】
・DoorDashは4月5日に非拘束提案を提出。提示額は2.7 ~ 2.8 億ポンド(1株180ペンス)で約23 %のプレミアム。5月23日までに確約提案が必要で、成立可否は英国CMAを含む規制審査がカギ
・報道直後、Deliveroo株は約17 %上昇。一方DoorDash株は小幅下落にとどまり、市場はシナジー創出での利益押し上げを織り込む姿勢
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【戦略的シナジー】
① 地域補完
DoorDashは北米シェア約60 %だが欧州は手薄。Deliverooは英国・アイルランドでシェア40 %前後。買収により「北米+欧州」の二大市場を押さえる。
② スケールメリット
広告販売、クラウドキッチン、AIルーティングなど投資領域が重複。DoorDashのデータプラットフォームと配送アルゴリズムを欧州市場に展開し、注文単価と効率を同時に改善できる余地。
③ ブランド戦略
Wolt買収時と同様にDeliverooブランドは維持予定。ローカルブランド力を活かしつつバックエンド統合でコスト削減を図る。
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【リスク要因】
・規制リスク:CMAは過去にアマゾンの16 %出資時も厳格審査。競争制限への懸念から店舗売却や手数料上限設定などの条件付与が想定される。
・労務コスト:欧州で進むギグワーカー保護法制化は配送コストを押し上げる可能性。
・統合難易度:Wolt統合は比較的スムーズだったが、Deliverooは規模・国数ともに大きく、IT基盤・文化の統合コストが読みにくい。
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【競合の動き】
・Uber Eats:欧州トップシェアを維持しながら広告とリテール配送に注力。
・Just Eat Takeaway(Prosus傘下):自社配送縮小で粗利改善を継続。
・Delivery Hero:ラテンアメリカ撤退後、EMEAとアジアに資源集中し25年もプラスEBITDA見通し。
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【今後の業界展望】
2025~26年は「規模×黒字化」が最大テーマ。DoorDashがDeliveroo統合を完了できれば、広告・サブスク・即時小売を含むマルチバーティカル型モデルが欧州にも浸透し、新規プレーヤー参入余地は一段と狭まる。審査が長期化または条件が重くなれば、Uber EatsやProsusがシェア奪回に動き、欧州市場の競争は再び流動化する。
投資家視点では次の3点を注視したい。
1 規制審査に伴う追加コストとスケジュール遅延
2 サブスク会員数と広告売上比率の伸び(LTV/CAC改善度合い)
3 統合後12か月以内のシナジー実現額(EBITDAへの貢献度)
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まとめ
DoorDashが黒字化に漕ぎつけたことで「巨大な注文量こそ利益を生む」という命題が実証されつつある。Deliveroo買収が成功すれば、DoorDashは北米と欧州を同時に支配する“デュアルハブ”体制を構築し、プラットフォームの覇権を狙える。一方で規制・労務・統合コストの不確実性は高く、買収シナリオの成否は2025年下期以降の統合スピードと規制対応次第となる。投資家は上記3指標をウォッチし、黒字維持とシェア拡大の両立を見極める局面に入ったと言えよう。
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