【イントロダクション】
4月7日、トランプ大統領が米外国投資委員会(CFIUS)に再審査を命じたことで、日本製鉄によるUS Steel買収案が息を吹き返した。さらに5月1日には米アクティビスト・ファンドのサードポイントが「意味のある」株式を取得したと公表し、交渉成立へのテールウインドが強まっている。
【1 これまでの経緯】
US Steelと日本製鉄は2023年12月に約141億ドルで合意したが、2025年1月3日にバイデン大統領が大統領令で取引を禁止。国家安全保障上の懸念と労働組合への配慮が背景にあった。
【2 再審査メモのインパクト】
トランプ大統領は大統領令で「45日以内に結論を示すようCFIUSに指示」。デューデリジェンスをやり直す形となり、企業側は追加的なリスク緩和策を提案できる余地が生じた。
【3 サードポイント参戦で何が変わるか】
ダニエル・ローブ氏率いるサードポイントは「産業ロジックが明白」として買収成立を後押しする構え。持株比率は非開示ながら報道では最大9.9%との観測もあり、株価はニュース直後に一時2%上昇した。
【4 米国再工業化ストーリー】
インフラ投資法(IIJA)など公共支出の波で、2021~2031年に追加で5,000万トン超の鋼材需要が見込まれるとの試算がある。民間でもアルセロール・ミタルが2025年2月に約9億ドルの電磁鋼板工場新設を発表するなど、国内製造回帰の流れが加速している。
【5 日本製鉄にとっての戦略的意義】
米国はグリーンスチール(低炭素電炉)の商業化が進みやすい巨大市場。日本製鉄は自社の低炭素技術を米国内で展開し、2030年代の国内脱炭素コストを海外収益で相殺する狙いがある。加えてUS Steelの新設電炉Big River 2は12月に初出荷済みで、最新設備を活用した垂直統合が可能になる。
【6 US Steelの足元ファンダメンタルズ】
2024年売上高は156億ドル、調整後EBITDAは13.7億ドルと前年から約14%縮小。それでもフリーキャッシュフローはプラスを維持し、買収資金のレバレッジ負担に耐え得る体質を示した。
【7 シナリオ分析】
①再審査で承認:米国に約135億ドル規模の対外直接投資が流入し、電炉増設によるCO₂削減が促進。US Steel株のアービトラージ余地は買収提示額55ドル近辺まで。
②再度否認:US Steelは訴訟継続と国内投資計画の加速で独立路線。短期的には設備更新CAPEXが重荷。
③条件付き承認:合弁比率の変更や防衛関連製品の米国内限定生産など、追加モニタリング条項付きで着地。
【エクイティ投資家への示唆】
・現行株価(5月5日終値44ドル前後)は買収成立確率を5割弱と織り込む水準。買収成約で+25%、再拒否で-20%程度が目安。
・再工業化テーマの構造需要と電炉転換のESGプレミアムを考慮すれば、長期には独立存続でも上値余地は残る。
・ボラティリティ上昇局面を利用したイベントドリブン戦略が引き続き有効。
【まとめ】
再審査という「第2幕」は、米国の保護主義と供給網強靱化、そして日本企業の海外成長戦略を映す鏡だ。日本製鉄が技術優位を活かし米国の再工業化に資するというストーリーが説得力を増せば、規制と市場が歩み寄る余地は十分にある。引き続きCFIUSの45日タイムラインとサードポイントの株主提案に注目したい。
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