#717 第9章 “だから言ったじゃん”を組織から消すリーダーシップ ── 予測共有会議と事後検証ミーティングの設計

Business book

9-1 はじめに──リーダーの使命は「結果論の根絶」

「だから言ったじゃん」という言葉は、組織における信頼を蝕む毒である。
それを根絶できるのは、リーダーの行動だけだ。
未来を語らず、結果だけで判断する文化を変えるには、リーダー自らが「未来を共有し、学びを公開する」姿勢を貫く必要がある。
本章では、予測共有会議と事後検証ミーティングという2つの制度設計を通じて、結果論を防ぐリーダーシップの在り方を明確化する。


9-2 予測共有会議──“未来を語る”ことを仕組みにする

9-2-1 目的:未来シナリオの合意形成

この会議のゴールは「未来に対する共通の仮説」を全員でつくることにある。
単なる進捗確認ではなく、「何を目指すのか」「どのリスクを想定しているのか」を言語化し、合意する。これにより、後になって「誰も想定していなかった」という言い訳が成立しなくなる。

9-2-2 参加構成:多様な立場が予測を磨く

経営層・現場・リスク管理の三層を揃える。
役割は明確に区分する。
・仮説提案者:未来シナリオを提示する
・リスク指摘者:盲点や想定外を掘り出す
・対応策設計者:打ち手を定義し行動計画に落とす
多視点の融合によって、“偏った予測”が“磨かれたシナリオ”に変わる。

9-2-3 アジェンダ設計:仮説→リスク→アクション

流れを定型化する。
① 仮説共有 → ② リスク洗い出し → ③ 対応策決定。
この構造を守ることで、議論が感情や個人批判に逸れず、事実と未来に基づいた生産的な合意形成が可能になる。

9-2-4 アウトプット:予測シナリオドキュメント

会議の成果は即日「予測シナリオドキュメント」としてまとめる。
内容は「想定した未来」「リスク一覧」「実行責任」「検証タイミング」。
イントラ上で全員が閲覧可能にし、後の検証時に“予測と結果の差”を正しく評価できるようにする。

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9-3 事後検証ミーティング──“学びを収穫する場”に変える

9-3-1 目的の再定義:ポストモーテムからラーニングセッションへ

失敗追及の場ではなく、“知見を掘り出す場”として設計する。
名称を変えるだけで、参加者の心理的抵抗は大幅に下がる。成功も失敗も「学び」として均等に扱う。

9-3-2 3ステップ振り返り:事実→インサイト→行動

① 事実確認(データ・出来事)
② インサイト抽出(気づき・仮説のズレ)
③ 次のアクション定義(何を、いつ、誰が)
この三段構成を徹底すれば、感情論や責任論に流れず、行動改善が自動的に導き出される。

9-3-3 ファシリテーション技術:ポジティブ・クエスチョンを使う

「なぜ失敗した?」ではなく「どこがうまく機能した?」「次は何を試したい?」と問う。
質問の順序を変えるだけで、場の空気が攻撃から協働へと変わる。リーダーはその“質問設計者”であるべきだ。

9-3-4 評価視点:成果+検証プロセス

売上・納期などの成果に加え、「仮説の質」「検証の徹底度」「学びの共有度」も評価する。
結果だけを追う組織から、プロセスを磨く組織へと進化する。


9-4 リーダーの行動モデル──未来を語り、失敗を共有する人

9-4-1 先手で語る:仮説と判断根拠を公開する

リーダーは「自分の仮説」を常に口に出す。
未来に対して先に語ることが、責任と信頼を生む。予測が外れた場合も、「どの前提がズレたか」を明確にできるため、結果論が起きない。

9-4-2 フィードフォワードを与える

部下の行動に対して「何がダメだったか」ではなく、「次にこうするともっと良くなる」と伝える。
未来を語る言葉が、チーム全体のメンタルモデルを前向きに保つ。

9-4-3 失敗をオープンにする

自分の過去の判断ミスを率直に共有し、その学びを語る。
リーダーが失敗を語ると、部下は「自分も言い訳せずに挑戦できる」と感じる。心理的安全性の最高の証明は、上司の“誠実な失敗談”である。



9-5 評価制度と報酬設計──「予測力」を見える化する

9-5-1 予測活動をKPI化

KPIに「予測共有会議参加率」「提出シナリオ数」を加える。
“予測すること自体が評価される”構造をつくることで、未来志向を制度的に定着させる。

9-5-2 360度フィードフォワード評価

同僚・部下・上司から「仮説の明確さ」「リスク指摘の鋭さ」「アクション設計力」を評価。
数値だけでなくコメント形式でフィードフォワードを回収することで、改善の具体策が見える。

9-5-3 インセンティブ設計

予測の的中よりも「事前共有」や「学び共有」を称える。
予測文化は“正解競争”ではなく“学習競争”で育つ。報奨や社内表彰は、文化形成のレバーとして最も効果的である。


9-6 リーダー育成プログラム──学びを仕組みにする

9-6-1 ケース演習で体得する

実際のプロジェクトを題材に、予測シナリオ策定と事後検証をロールプレイ。
体験を通じて「予測→検証→改善」の一連を身につける。

9-6-2 メンタリング&コーチング

経験豊富なリーダーが若手の会議に同席し、リアルタイムでフィードフォワード。
“見て学ぶ”より“共に実践する”スタイルで定着率を高める。

9-6-3 意思決定ログレビュー

リーダー自身の意思決定履歴を定期的に振り返る。
「どんな予測をしたか」「何がズレたか」を客観的に分析することで、思考パターンの改善が進む。


9-7 本章のまとめ──予測文化が結果論を超える

「だから言ったじゃん」を消す唯一の方法は、
“未来を共有し、結果を検証し、学びを称える”仕組みを持つこと。

予測共有会議が未来への共通認識を生み、
事後検証ミーティングが学びを循環させる。
リーダーがその中心で先に語り、率直に振り返ることで、
組織は「正解を出す集団」から「学びで進化する集団」へと進化する。

次章では、この“予測文化”を全社的に拡張し、
「先読みで勝つ経営」へと接続する戦略を提示する。

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