【1 会社と決算発表の位置づけ】
太平洋フェリー株式会社は名古屋鉄道(名鉄)100%子会社で、苫小牧―仙台―名古屋の1,330km航路を「きそ」「いしかり」「きたかみ」の3船で運航する国内最大級の長距離フェリー会社。24年3月期(第44期)売上高は150億円で、名鉄連結の「海運事業」セグメントをほぼ単独で構成する。名鉄は非公開子会社のため、定量情報は ①名鉄連結の海運セグメント、②名鉄IR説明資料、③官報公告 の三経路で把握する必要がある。
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【2 24/3期(通期)業績ハイライト】
名鉄連結の運送事業(トラック+海運)のうち、海運サブセグメントは通期でも増収増益。通期の運送事業全体では売上高1,383億円(前年比+0.2%)、営業利益17.9億円(同+5.9億円)。このうちトラックがやや停滞した一方、海運が二桁の利益成長を牽引し、運送事業全体の利益率を1.3%→1.9%へ押し上げた。
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【3 25/3期上期(4~9月)トレンド】
名鉄上期決算(25/3期第2四半期)では海運事業がさらに好調。
・売上高 98.1億円(前年同期比+7.9%)
・営業利益 12.7億円(同+98.0%)
・営業利益率 12.9%→前年6.9%から大幅改善
燃料サーチャージ適正化と旅客需要の戻りが同時に寄与した。
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【4 収益ドライバーの内訳】
旅客:コロナ5類移行後の旅行需要回復に加え、名古屋~仙台区間の価格訴求キャンペーンが奏功。客室稼働率は通期で70%台を回復し、単価改定も進んだ。
貨物:宅配各社がトラックドライバー不足(2024年問題)への対応としてRORO船利用を拡大。車両無人航送の比率が前年40%→45%へ上昇し、深夜便の固定荷主も増加。
燃料:重油高騰の影響は続くが、内航燃料油価格調整制度の補助金によって調整金ランクを「Pランク32%」に据え置き、マージンを維持。
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【5 費用構造と資本投資】
費用面では燃料費の比率が売上の28%→24%へ低下。人件費は船員の高齢化対応で微増。
資本投資では ①新造船「いしかりⅡ」(29年度就航予定、約180億円)建造発注、②名古屋港ターミナルの自動車レーン増設、③船内Wi‑Fi高速化。ROEは親会社連結ベースで5.8%→6.5%へ改善。
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【6 財務安全性】
太平洋フェリー単体の自己資本比率は45%台、ネット有利子負債は年商比1.2倍。親会社名鉄の支援とターミナル債券の活用により、今後の大型投資負担にも耐え得るバランスシートと評価。
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【7 今後の注目ポイント】
・大阪・関西万博(2025年4月開幕)に向けたインバウンド集客策。名古屋から「フェリー+バス」商品を拡販予定。
・IMO環境規制(EEXI/CII)と国内GHG削減ロードマップ。新造船はLNG二元燃料エンジンを採用予定。
・ドライバー2024年問題後のモーダルシフト本格化。貨物比率50%突破が営業利益率15%超えのカギ。
・親会社名鉄の事業ポートフォリオ再編(運送子会社の統合と海運事業の上場検討報道)に伴う資本政策。
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【8 投資家視点でのまとめ】
名鉄株(9048)は鉄軌道リオープン銘柄として注目されがちだが、海運事業は高マージンかつ景気循環耐性が強く、ポートフォリオ下支え要因になっている。24年度からの配当性向引き上げ(22%→30%想定)もあり、PBR0.9倍台の現在は悪くないエントリーポイント。貨物利用拡大と新造船投入で25/3期以降の安定成長が視野に入りつつある。
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【執筆後記】
非上場の太平洋フェリー単体データは官報公告に限られるが、名鉄のセグメント情報を組み合わせることで業績の輪郭は十分つかめる。今後も親会社開示と制度公告を横断的に追うことで、フェリー事業の収益改善ストーリーを継続ウォッチしたい。
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