#532 Googleとトランプ政策:対立と影響を総点検(2025年版)

■ はじめに

トランプ政権(第2期)の政策は、巨大テック各社に再び強いプレッシャーを与えています。その中でも Google は、移民・通商・通信規制・反トラストの各分野で標的となり、同社の経営計画や株主リスクに直結する局面が増えています。本稿では Google の態度と具体的な影響を時系列で整理し、投資家の視点からリスクとチャンスを考察します。

 

■ 1. 移民政策:人材確保の生命線を守るための強硬姿勢

2017 年の入国禁止令(通称「トラベルバン」)に対し、サンダー・ピチャイ CEO は社内メモで「187 人の社員が帰国不能に陥る」と強く批判し、緊急帰国を指示しました。以来、Google は移民制限に一貫して反対しており、第2期トランプ政権下でも米議会へのロビー活動を継続しています。移民規制は高度人材の採用コスト上昇と研究開発速度低下につながるため、同社の長期的な競争力を左右する要素です。 

 

■ 2. 通信規制(Section 230 等)へのスタンス

2025 年 1 月、トランプ大統領は「ネット企業の責任拡大」を掲げ Section 230 の見直しを再び示唆しました。Google は「表現の自由とインターネット産業の革新を守る不可欠な法律」として維持を主張し、撤廃阻止のロビー活動を展開しています。もし改正が実現すれば、YouTube や検索結果に対する訴訟リスクが急拡大し、法務・モデレーション費用が跳ね上がる恐れがあります。 

 

■ 3. 対中貿易・関税:報復調査で新たな逆風

2025 年 2 月の追加関税(10%)を受け、中国政府は Google独禁法違反で正式調査すると発表しました。もともと中国売上は限定的ですが、Android エコシステムやハードウエア生産網への波及が予想され、サプライチェーンの再設計コストが増大します。併せて、ワシントンでは関税緩和を求めるロビー活動が活発化しており、Google も関連団体を通じて働きかけを強めています。 

 

■ 4. 反トラスト:広告と検索、そして AI へ

2025 年 4 月 17 日、米司法省はデジタル広告市場での独占を認定し、Google 敗訴の判決を勝ち取りました。続く検索部門の救済フェーズでは、生成 AI「Gemini」を含む事業分割やデータ開放が焦点となっています。AI と検索の相互補完を断つ remedial(救済)措置が取られれば、広告収益モデルの再構築と AI 投資戦略の大幅な修正が必要になります。 

 

■ 5. ソーシャルメディア政策:TikTok 凍結とアプリ市場

2025 年 1 月、トランプ大統領TikTok 禁止法の発効を 75 日間停止する大統領令を発出しました。この措置は「一時猶予」に過ぎず、Google Play ストアが TikTok を再掲載すれば巨額罰金のリスクを負います。Google は現時点でアプリ復帰を見送り、法的確実性を慎重に見極めている状況です。 

 

■ 6. 収益・株価へのインパク

・ 広告依存の収益構造:デジタル広告敗訴を受けた分社案は、最長でも 2026 年までに結論が出る可能性が高く、広告粗利益率が 5~10pt 低下するシナリオも想定されます。

・ ハードウエアコスト:対中関税により Pixel・Nest 向け部品の調達原価が平均 6~8%上昇するとの試算があります(自社試算、同業他社ガイダンスより)。

・ AI 投資:Gemini の学習用データ共有を強制されれば、競合との優位性が縮小し、クラウド部門の差別化戦略再考を迫られるでしょう。

 

■ 7. 投資家への示唆

短期的には訴訟コストと政策リスクが重しとなりますが、Google は 1) クラウド比率引き上げ、2) ハードウエア生産の東南アジア分散、3) AI API の外販加速 で成長ドライバーを多角化しています。トランプ政策の進展次第でバリュエーションの変動幅が大きい点は注意が必要ですが、反トラストの最終救済策が確定すれば政策リスクの上限が見え、PER が再び切り上がる余地もあります。

 

■ まとめ

Google はこれまでもトランプ政権の強硬策に真っ向から対立しながら、ロビー活動と事業多角化でリスクを管理してきました。第2期では移民・通信規制・通商・反トラストの四正面作戦となり、政策対応コストは確実に増大します。ただし AI・クラウドという成長エンジンが政策リスクを上回るかどうかが、今後 1~2 年の株価ドライバーになるでしょう。投資判断では、政策イベント(特に反トラスト救済判決と通商交渉の節目)に合わせたポジション調整が鍵となります。

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