ベトナムのスタートアップ・エコシステムは近年、資金調達額とユニコーン輩出数の双方で東南アジア有数の成長を遂げています。2025年に入り、一部の有望企業は従来のNASDAQやシンガポール取引所ではなく、東京証券取引所(以下、東証)でのIPOを本格的に検討し始めました。背景にあるのは、日本側の受け入れ体制強化と円建て資金へのアクセス需要です。
東証は2024年3月に「東証アジアスタートアップハブ」を立ち上げ、シンガポール、台湾、韓国、マレーシア、インドネシア、ベトナムから計14社を支援対象に選定しました。ベトナム勢として名を連ねたのが、デジタルコンテンツ企業POPS Worldwideです。日本のメディア企業との協業を通じ、上場後の事業シナジーも描きやすい点が評価されました。
こうした制度面の支援と並行し、ジェトロは2024年10月にホーチミン市で「The Ultimate Guide to IPO in Japan」と題する交流イベントを初開催。東証担当者や日本の証券会社・監査法人が参加し、IPO要件や評価軸を直接共有する場を設けたことで、150名を超えるベトナム側参加者から具体的な質問が相次ぎました。
上場ルートは多様です。グローバル基準のプライム市場を狙う企業がある一方で、まずはTOKYO PRO Marketに上場し実績を積む選択肢も定着しつつあります。2024年2月に上場したUPraise Inc.は、在日ベトナム人材向けHRサービスを手がけ、プロ投資家向け市場での早期上場を実現しました。
日本市場の魅力
・アジア域内最大級の機関投資家層と安定的な円建て資金調達機会
・ソフトインフラ(監査・IR・翻訳等)に強みを持つ支援企業ネットワーク
・上場後に日本企業との協業を進めやすい文化的・地理的近接性
課題と乗り越え方
① ガバナンス整備:東証基準の社外取締役要件や内部統制は早期に設計
② 言語とIR:日本語開示が必須となるため、IRチーム強化と専門翻訳の導入が不可欠
③ 会計基準:IFRSまたは日本基準への組替えを想定し、海外経験のある監査法人と契約
投資家・起業家への示唆
・シリーズB段階で日本のCVCやVCを資本に迎えると、事前DDとPRを同時に進めやすい
・日本企業とのPoCやジョイントベンチャー実績を持つことで、上場審査時の成長ストーリーが明確になる
・プロマーケット経由→グロース市場へのステップアップ戦略は、バリュエーション最適化に寄与
おわりに
2025年は日本政府の「スタートアップ育成5か年計画」2年目に当たり、海外企業に対する制度支援が拡充されます。円安基調と日本のリスクマネー供給力を背景に、ベトナムスタートアップの東証IPOは単発の話題ではなく、中長期トレンドになる可能性が高いでしょう。投資家は日本×ベトナム連携の新セクターを先取りし、スタートアップは日本基準を満たす準備を早期に進めることが成否を分けます。
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