◆分散型ホテルとは
空き家・古民家・空き店舗など複数の建物を IT で一元管理し、街全体をひとつの宿として機能させる仕組みです。フロントは分散配置、チェックイン後の導線は地域へ自然に広がり、旅行者の滞在行動そのものが「まち歩き」になります。結果として宿泊費だけでなく飲食・体験・土産購入などの消費が地域に循環し、空き家対策と観光振興を同時に進められる点が注目されています。
◆日本各地で進む取り組み
行政の観光庁「地域一体型宿泊推進事業」採択を契機に、兵庫・丹波篠山、徳島・神山、長野・木曽、山口・長門湯本、福岡・八女福島などで続々と事例が誕生しました。自治体が改修費を補助し、民間オペレーターが運営ノウハウと予約システムを提供する「官民連携モデル」が主流です。
◆事例:篠山城下町ホテル NIPPONIA
丹波篠山では歴史的町並みの空き家をリノベーションし、2015 年に 4 棟 10 室で開業。2024 年時点で 7 棟 19 室へ拡大し、年間 2 万人超の宿泊客が城下町を回遊する導線が定着しました。周辺の飲食店や体験プログラム売上も伸び、空き店舗の再生が加速しています。
◆地域にもたらす 4 つの効果
経済波及――宿泊客が複数の建物を行き来するため、エリア全体での消費拡散が起こり、複数事業者の売上が底上げされる
雇用創出――清掃・フロント・体験ガイドなど新規職種が生まれ、U・I ターンを促進
文化継承――古民家改修で伝統工法や地場材が再評価され、職人技能が継承される
関係人口――リピーターが「第二のふるさと」としてイベントやクラウドファンディングに参画し、財源多様化につながる
◆運営上の課題と成功要因
課題は①清掃動線と鍵管理の効率化、②異なる所有者間の合意形成、③改修コスト回収の長期化。成功している地域は以下 3 点を押さえています。
・自治体が補助金や遊休公有地提供で CAPEX リスクを軽減
・プラットフォームが PMS(宿泊管理)と動態分析ツールを導入しオペレーションを一元化
・地域の観光協会や DM O がコンシェルジュ機能を担い、滞在中の体験プログラムをコーディネート
◆今後の展望
ワーケーションや長期滞在と相性が良いため、インバウンド需要の「旅先デュアルライフ」層を取り込む余地が大きいです。また、改修時に断熱性能や再エネ導入を織り込み、脱炭素型観光インフラとして評価を高めれば ESG 資金の呼び込みも期待できます。
◆まとめ
分散型ホテルは「泊まる」機能を超え、地域の資源を編集して価値を再定義するプロデュース事業です。空き家問題・観光振興・雇用創出という複合課題にワンストップで応える手法として、今後も各地で拡大するでしょう。
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