#616 生成AIのアジア戦略:北米に負けない現在地とは?

1.はじめに

アジアにおける生成AIは、デジタルインフラの高度化や政府支援、企業の研究開発投資を背景に急速に成長しています。本稿では、台湾で開催されたCOMPUTEX TAIPEI 2025の最新動向を中心に、アジア各国の生成AI戦略と市場状況を概観し、北米との比較を行います。

 

2.アジア生成AI市場の概況

・アジア太平洋地域の生成AI市場は、2024年に約55.6億米ドルの売上を記録し、2025年から2030年にかけて年平均成長率(CAGR)31.2%で成長すると予測されています  。

・北米市場は2024年に全体の約41%を占めていますが、アジア太平洋地域は高い成長率でその差を縮めつつあります  。

 

3.COMPUTEX TAIPEI 2025のハイライト

・期間:2025年5月20日~23日、会場:台北南港展覧館

・テーマ「AI NEXT」のもと、生成AIやエージェント型AI、インテリジェントロボットが新設のAIサービス技術ゾーンやロボット・ドローンゾーンで展示されました  。

・主な出展企業:NVIDIAQualcommMediaTek、Kneronなど、半導体からスタートアップまで幅広いプレーヤーが最新技術を披露しました  。

 

4.国別生成AI戦略

4・1 台湾

TSMCMediaTekが最先端プロセス・チップで生成AI向けハードウェアを強化。InnoVEXスタートアップゾーンではEdge AIを活用した新興企業が多数参画しました  。

・政府は産業振興策としてAI研究開発補助金を拡充し、民間との連携を推進しています。

 

4・2 中国

・国家補助金や巨額のR&D投資を通じて、HuaweiやDeepSeekなどが大規模言語モデルを自社開発。SMICやCambricon Technologiesが半導体国産化を進め、AI計算基盤を内製化しています  。

・ByteDanceの「Doubao」は世界でも上位のAIアプリに成長し、エッジAI分野で存在感を示しています  。

 

4・3 韓国

SamsungやSK HynixがAIサーバー向けDRAM・NAND開発を加速。政府は「AI主権」政策を掲げ、言語・文化特性を反映したAIモデルの開発を支援しています  。

・多くの大企業とスタートアップが連携し、グローバル市場を狙った共同研究が進行中です。

 

4・4 日本

著作権法の緩和により、AIトレーニングデータの利用が容易化。これがクリエイターから懸念を呼ぶ一方で、AI企業には追い風となっています  。

Microsoftは2025年までに日本国内のデータセンターに29億ドルを投資し、AI人材育成プログラムやロボティクス研究所を設置。インフラ面での競争力を強化しています  。

 

5.北米との比較

・市場規模では北米が依然として優勢ですが、アジアは高い成長率と多様な政府支援策により、今後数年で北米市場へのキャッチアップが期待されます  。

・技術人材プールやデータプライバシー規制、文化/言語の多様性対応など、北米とは異なる強みと課題が共存しています。

 

6.課題と展望

・データプライバシーや著作権保護の整備が急務。特にクリエイター権利の保護とAIイノベーションのバランスが焦点となります。

・インフラ整備が進んだ都市部と地方部の格差是正、専門人材の育成・定着が今後の成長を左右します。

・アジア各国間の連携強化と国際標準策定への参画が、グローバル競争力を左右する重要要素となるでしょう。

 

7.まとめ

アジアの生成AI市場は、北米に次ぐ成長エンジンとしての地位を確立しつつあります。COMPUTEX TAIPEIをはじめとするイベントを通じて、ハードウェアからアプリケーションまで多彩なプレーヤーが連携し、独自の戦略を打ち出しています。政府支援や産学連携を強化しつつ、著作権やインフラ課題に取り組むことで、今後さらなる飛躍が期待されます。

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