緒言
素材メーカーの雄・日東電工(6988)が 4 月 25 日に FY2024(2024 年 4 月〜2025 年 3 月)本決算を発表しました。売上高は初めて 1 兆円を超え、すべての利益指標で過去最高を更新。為替追い風もあったものの、主力のオプトロニクス事業が業績を大きく押し上げました。以下、数字の確認とともに背景を読み解き、来期ガイダンスの含意を考察します。
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1.決算ハイライト
・売上高 1 兆 1,390 億円(前年比 +10.8%)
・営業利益 1,857 億円(+33.4%)
・営業利益率 18.3%(前年 15.2%→ +3.1pt)
・当期純利益 1,372 億円(+33.7%)
・ROE 13.5%(+2.6pt)
為替(円安)が営業利益を約 233 億円押し上げたものの、数量増・製品ミックス改善が利益成長の主因となりました。
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2.セグメント別概況
【インダストリアルテープ】
売上 3,557 億円(+5.3%)、営業利益 460 億円(+19.0%)。スマートフォン向け部材の採用拡大やセラミックコンデンサー工程材の回復が牽引。自動車用材料は減産の影響で軟調。
【オプトロニクス】
売上 5,430 億円(+15.4%)、営業利益 1,731 億円(+39.0%)。PC・タブレットの需要堅調により光学フィルムが伸長し、HDD 用高密度サスペンション(CIS)がデータセンター需要で急増。営業利益率は 31.9%へ上昇。
【ヒューマンライフ】
売上 1,321 億円(+6.1%)、営業損失 ▲119 億円(前年 ▲95 億円)。バイオ医薬案件が前進する一方、パーソナルケア子会社でののれん減損が響き赤字が拡大。
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3.財務の着眼点
・フリーキャッシュフロー(FCF)は 1,028 億円と前年から 152 億円増。
・キャッシュリッチな体質を維持しつつ、有形固定資産投資を前年比+約 10 億円増の 930 億円へ拡大。
・FY2025 に配当を 60 円(4 円増)へ増配予定、さらに 800 億円規模の自己株買い(2025 年 2〜8 月)を実施予定。株主還元姿勢が一段と鮮明になっています。
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4.FY2025 見通しと経営方針
会社計画は売上高 9,840 億円(▲2.9%)、営業利益 1,700 億円(▲8.4%)と慎重。スマホ関連の在庫調整を織り込み、円高前提(146 円/US$)で為替益縮小も見積もっています。とはいえ主要2事業は引き続き高い利益水準を維持し、ヒューマンライフは赤字幅大幅縮小を見込む構造。中期的には
・次世代ディスプレイ(車載大型パネル含む)
・半導体前工程材料
・核酸医薬 CDMO
といった成長テーマが収益ドライバーとなります。
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5.投資家向け注目ポイント
・営業利益率 18%超は日本の素材メーカーとしてトップクラス。為替を除いても 3pt のマージン改善が確認でき、価格交渉力・高付加価値化が数字に表れています。
・800 億円の自己株買いは発行済み株式の約 6%相当。需給面の下支え要因です。
・保守的ガイダンスが恒例の同社。過去3年は期末に上振れ着地しており、FY2025 も為替動向次第で再び上ブレ余地があります。
・リスクはハイエンドスマホ・データセンター投資サイクルの減速と半導体市況の遅延回復。中国景気の再減速も需要下振れ要因。
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6.まとめ
日東電工は FY2024 決算で「売上1兆円・営業利益率 18%」というマイルストーンを達成しました。高収益事業のオプトロニクスがけん引し、円安メリットも取り込みつつ利益成長を加速。来期計画は減収減益ながら、中期の成長ドライバーと積極的な株主還元を勘案すると、押し目は中長期投資の好機と考えます。スマホ・半導体サイクルをにらみつつ、業績修正や還元策の追加に注目しましょう。
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免責事項
本記事は公開情報を基に作成した筆者の見解であり、投資勧誘を目的とするものではありません。投資判断はご自身の責任でお願いいたします。
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