■ 1. 決算ハイライト
2025年3月期の連結売上高は2兆5,612億円で前年比6.1%増、営業利益は7,421億円で同5.9%増となり、2年ぶりに増収増益へ復帰した。経常利益8,205億円(+4.2%)、当期純利益5,340億円(+2.7%)もそろって過去2番目の高水準を更新している。
■ 2. セグメント動向
・電子材料(シリコンウエハーなど)
売上高9,343億円(前期+10%)。AIサーバー向け300 mmウエハーが牽引し、数量・単価とも堅調。
・生活環境基盤材料(PVC・樹脂)
10,415億円(+3%)。前年度までの値上げ効果が続き、北米住宅向け需要も底固い。
・機能材料・加工商事サービス
合わせて5,853億円(+6%)。光学レンズモールド材や熱伝導シリコーンがEV/データセンター向けに伸長。
■ 3. キャッシュフローと財務体質
営業CFは8,819億円へ拡大し、期末手元資金は8,827億円と過去最高。自己資本比率は82.6%を維持し、ネットキャッシュ経営を継続している。
■ 4. 株主還元強化
期末配当を53円に増額し、年間106円(前期100円)へ。配当性向は39.3%。さらに最大5,000億円・2億株(発行済みの10.2%)の自己株買いを決議し、5月21日から1年間で市場買付を実行する予定だ。
■ 5. 業績ドライバーとリスク
プラス要因
・生成AIの普及で300 mmウエハー需要が拡大継続
・米国・中国で進む半導体投資に伴う材料需要
・PVCは原燃料高が沈静化しマージンが改善基調
マイナス要因
・メモリー在庫調整の長期化リスク
・円高転換時の為替影響
・大型設備投資(医薬セルロース、シリコーン)の立ち上げ費用先行
■ 6. 投資視点(NISA活用例)
高収益体質と潤沢なフリーCFを背景に、信越化学は配当+自社株買いで株主還元利回り4%台を提示する見込みだ。半導体関連の中では景気循環の影響を受けにくい点、住宅・医薬など複数の事業ポートフォリオを持つ点でディフェンシブ性もある。長期NISA口座で「コア持ち」し、下押し局面での買い増し戦略が有効と考える。
■ 7. まとめ
2024年に一服した業績は、AI半導体需要の再加速で再成長トレンドへ。手元資金を活用した5,000億円の自己株取得と配当増は株価を下支えしやすい。中期的には新規材料開発(GaN、QST™基板など)の商業化進捗が次の株価ドライバーになる。引き続き四半期ごとのウエハー販売数量と設備投資ペースを注視したい。
下図は直近3期の売上高と営業利益を比較した棒グラフ。過年度の調整局面を経て2025年3月期が回復している点を視覚的に確認できる。
(グラフは上に表示されています)
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